月に叢雲、花に風
2017年07月20日(木)07時22分 =ホテル八咫烏2Fビュッフェホール=
「レイちゃん、先輩たちは?」
「知らないよ。僕たちだけおいて小熊先輩も先に行ってしまったからね。僕たちはここで悠々とビュッフェを楽しんでおこうじゃないか。」
私たちは文野先輩に誘われて旅行をしに来ています。しかし、どうやら先輩たちは私たちを置いて何かをしているみたいなんです。そういえば、文野先輩自体見かけていなかったし何かあったのかな?
そう考えながらビュッフェで取ってきたサラダを食べる。シャキシャキとした新鮮な野菜のサラダに少しぐにゅりとした柔らかめのチーズのようなもの。そして、飲み込むと腔内にクリーミーさを残して胃にすとんと落ちる。流石、No.1メニュー。押し出す価値があるね。
「このサラダ、すっごくおいしいよレイちゃん。」
「そうなのかい、それじゃあ一口...。んー、|おいひいっていえはおいひいはな《美味しいといえば美味しいかな》。」
「ちゃんと食べ終わってから話しなさい。お行儀が悪いですよ。」
そうやってレイちゃんと一緒に食事をしていると、
「すみません、相席いいですか?」とピンク髪の同年齢ぐらいの女の子が話しかけてきた。そしてその後ろには、ガタイのいい大柄の男性が居た。
「いっ、いいですよ。ほっ、ほら。レイちゃん壁の方に寄ってあげて。」
「・・・はいはい。」そう言ってレイちゃんが退くと、そこにピンク髪の女の子が座る。そして、私が荷物を置いていた椅子には大柄の男が座る。そこさえなければいい空間だったんだけどなぁ。
「君たちはなぜこの街に来たんだい?」
食事を終えたレイちゃんが相席した二人へと問いかけると、二人同時に答える。
「私たちは旅行だよ。と言うか、働きすぎだから休めって言われて強制的に有給消化中だね。」
「医者が休める時に休まなくてどうするんだと言われてしまってね。最近旅行というものもしていなかったから、国内旅行をしていたんだ。」
私の中の知的好奇心が気になり始めたのでちょっと質問をしてみることにした。
「ええっと、もしかしてお二人は御夫婦だったりして?」
「そうだが。」と、男の方がすぐさま答えると左手を見せてくる。親指と小指には特に装飾もない簡素な指輪が、薬指には小さな宝石があしらわれた指輪をはめていた。
「ふぅん。サムリングとピンキーリングねぇ。」と、まじまじと男の人の手をレイちゃんが見ながら言う。
「結構博識なんだな、君。」
「それほどでも。科学者の卵たるもの知識は多いだけいいからね。」
「にしても、幻想的なものにも知見があるとは。」
「その幻想を現実にするのが我々だよ?」
「・・・確かにな。」と、二人の世界に入ってしまったため私もピンク髪の女性と喋ろうかなと視線を移し替えると、彼女は机の上に貼られた紙に視線が留められていた。私も気になり、その紙をのぞき込む。そこにはこう書いてあった。
――
捜索願
『烏丸 光』
もし見つけたら以下の電話番号に
090 - XXXX - XXXX
――
そしてその横には、銀髪と形容すべきような白さの髪をした長髪に、病的なほどの色白。それに皮膚と骨しかないようなほっそりとした身体。美形と形容すべきだろうか、いや、逆に綺麗すぎて恐怖を感じるというべきか。これが不気味の谷現象ってやつかな。
「その子、行方不明なんですね。」
「ですね。なんというか、その...。」
「不気味だねぇ。」
どうやら二人の会話も終わったようで、同じ紙を見てレイちゃんが言葉を零す。
「この顔、見れば見るほど不気味だ。確かにかわいらしさはあるにしろ、それ以上の謎めいた雰囲気を醸し出しているな。」
「それにしても行方不明か。と言うかこの名前、このホテルの運営会社の財閥と同じじゃないか?」
このホテルの運営会社は確か烏丸コーポレーテッド。ってなると、この子はこの会社の社長令嬢...ってことかな?
「・・・。」
レイちゃんが鋭い目つきでその子の写真を舐めまわるように見ている。
「どうかしたの、レイちゃん。」と聞いてみると、「なんでもない。」と言って写真を見るのをやめた。
「・・・それで、レイちゃん。これからどうするの?」
「決まってるじゃないか。この子を探すんだよ。」と、レイちゃんは写真に指をさしてトントンと叩く。
「いつも変なことに対して突っ走っていくのはいつも通りだったけど、今日もいつも通りだったね。」
「いつも通りじゃダメかい?」
「ううん、安心した。いつも通り好き勝手して全ての後片付けを任せるようなレイちゃんですっごく安心した。」
「・・・それは、その...、申し訳ない。」
その一連の流れを見ていたピンク髪の女性の方がふふっと笑みを零す。
「中々かわいいところもあるじゃない。レイちゃん、だっけ。私たちもそれに協力させてもらえないかしら。」
「歩が良いなら俺も手伝おう。岩崎桧だ、よろしく。」
そう言って、男性の方も強力を申し出て来た。
「歩さんと桧さんですね。私の名前は星宮桃花って言います。それでこっちが、」
「灰色の嵐だ「風倉伶ちゃんです。」...好きな方で呼んでくれたまえ。」
「ふふっ、桃花ちゃんにレイちゃんね。よろしく頼むわ。」
「それで、結局何をするんだ?」と桧さんが聞くとレイちゃんが答える。
「決まってるだろ。まずは、事情を聴きに行くのが先決だ。」と、ポケットからスマートフォンを取り出して電話の画面を私たちに見せつける。入力された番号はあの捜索届に印字されていた番号だった。