呪い(のろい)転じて呪い(まじない)となる
手にはめたグローブを再度、皮膚に接着させるようにきつく締める。
「君たちのこと、資料で見たことがある。確か、鈴埜宮財閥お抱えのボディガードでしょ。少なくとも君たちの現社長に娘は居なかったはずだが。」
「そんなこと言われても何も出ませんよ。我々があなた方に言うことはただ一つ。お嬢をこちらに引き渡してください。」
「それはできない相談だ。それともなんだ、数で勝れば盤面を有利に進めることができるなどと旧時代から進歩していない軍師でも君の脳内に飼っているのかい?」
「ご忠告どうも。でも警察官としてそんな言い方はどうなんですかね。」
彼の後ろのいる数名はどうやら懐に得物があるみたいだ。そして、それに手をかけようとしているのも見えた。
「それを言うのは今更というものさ。それに、後ろの君たち。それを抜いた瞬間、俺は公務執行妨害としてお前らを逮捕する。」
「・・・やれるもんならやってみろってんだ!」
そう言うと彼らは5人がかりで俺に襲ってきた。
まずは正面にいる男。俺と会話していたせいで準備は不十分のようだ。姿勢を低くしタックルをかましながら彼の衣服を掴む。それに合わせて2回銃弾が放たれる音が聞こえる。しかし、それが俺に当たることはなかった。どうやら、仲間に当てるのを恐れて外してしまったようだ。
後ろに居た彼らの様子を一瞬、確認すると狛凪と呼ばれていた男は槍を携え、他の奴らを守りながら赤髪の車に避難したようだ。
そして、視線を前に戻した瞬間。一台の警察車両がサイレン音を鳴らさずに、彼らの背後から現れ、後ろ側に居た拳銃持ちの二人を跳ね飛ばした。
これを好機と思った俺はそのまま掴んでいた男を投げ飛ばし、ナイフ持ちの男を倒す。そして、メリケンサックで殴ってこようとした男に対し警棒で側頭部にクリーンヒットを入れて倒した。
警察車両から降りて来た奴は跳ね飛ばした二人を手錠で拘束し、残りの奴らも手際よく拘束していた。
そして、赤髪の車に対して報告を入れようとした瞬間、狛凪やあの少女を含めた4名は車を走らせこの場を去ってしまった。
「狭間潤一参級職員、大丈夫ですか?」
「まあ、俺は問題ないんだが、銃刀法違反の容疑者が逃げちゃってな。ただ、例のアレも多分だが見つかったからね、これがあるから居場所は丸わかりなんだ。」
そう言いながらポケットから一つの端末を取り出す。
「・・・お前の力だったら全員捕縛もすぐにできたんじゃないか?」
「少なくともその場に一般人の人間が居る時点で使えませんよ。穂積伸二弐級職員。」
そう言って穂積さんに端末を渡す。
「そうか。それじゃあ、霞城さんにでも行ってきてもらうか。それじゃあ、このマヌケどもを連れて行きますか。」
そして、俺たち二人は車に詰め込めるだけ詰め込んで警察署へと向かうのだった。
2017年07月20日(木)10時02分 =呪い屋=
現場からあの赤髪の人の車に乗せられて私たち4人は山を下り、街中の一角にある寂れた民家のような建物の中へと連れられていた。
「に...、逃げてきちゃったけどどうしよう...。」
「まあ、いいんじゃないか。それ以上にいろいろ気になることがある。その、赤髪の兄ちゃん。お前はいったい誰なんだ?」
いや、良くないだろ。それもお前、銃刀法違反でパクられそうだったから逃げたんだろ。どう考えてもその方が罪が重くなるでしょ...。
そう思っていると、赤髪の人が話だす。
「ああ、自己紹介をしていなかったな。俺の名は津雲巡。ここで、呪い屋をしている者だ。」
「・・・呪い屋?」
「まーじーなーいーやっ!まあ、お祓いだったりそう言うことを専門にしてるところだ。」
言うなれば呪術師とかそう言う物なのか。情報が支配している現代日本においてもまだそんなもので商売をする人がいるとは...。まあ宗教も同じようなものか。
「それで、君たちの名前は...まあ中から聞こえてたから、一応顔と名前を合わせるために確認するがそっちの女性の方が桐藤さんで、そっちの槍を持っているあなたが狛凪さんですよね?」
「はい、桐藤波留です。こっちのバカが狛凪遼太郎ですね。」
「誰がバカだってぇ?」
やっすい挑発に乗るのは前から変わらないなこいつ。だからあの時弾き飛ばされて死にかけたって言うのにね。
「こらこら、喧嘩しないの。と言うかそれ以上にこの子のこと、誰か知ってる?」
そう言う彼の指さす先に座っている彼女は息も整い、周囲環境に戸惑いながらもある程度落ち着きを取り戻しているようだ。
彼女に目線を合わせるように津雲さんが床に座って話しかける。
「君の名前を教えてくれるかい、それと、何処からあそこまで来ていたのかも教えてくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
「わ、私の、名前は...光、です。あそこにいた理由は...、えーっと、その...、ごめんなさい。思い出せません...。」
光ちゃん...、多分あの時来ていたのがあの警官の言う通り鈴埜宮財閥の手先で、それに関連するのなら...。一つだけ、彼女と合致する存在が居る。
鈴埜宮光。先代の鈴埜宮財閥の社長である鈴埜宮海の一人娘であり...、7年前に、既に彼女は死んでいる。