聖なる夜を前にして災いを討つ - その1
遂に来ました、解決編です
「どうだ、落ち着いたか?」
そういいながら俺は奏介にペットボトルの水を渡す。
現在時刻13時23分。今までで一番巻き戻ったループだ。そして、俺たちは早々に坂下さんたちと合流をしていた。
「青木はバイクに燃料を入れてから来るらしい。それと文野に関しては避難誘導ののち後方支援を頼む予定だ。」
坂下さんは状況把握を含め色々頭を悩ませているようだ。そして、奈穂さんも何か気になることがあったのか椅子の上で胡坐をかきながら考え事をしているようだった。
「奈穂さん、そんなに悩んでどうしたんですか?」と聞くと、
「いやね、トラックが引火して爆発するのはある程度予測はしていたんだけどさ、それにしては大きい爆発だったってことと、アレの攻略法を考えてた。」
トラックの爆発に関してはぶっちゃけなにもわからないのでお手上げ状態だ。けれど、
「アレの攻略法だったらいくつか案があります。」と横を割って話に入ってきたのは奏介だった。
「ひとまず僕の方から見えたものとしては切断されても再生する驚異的な再生能力、そして不可視の攻撃。あと、全体的に身体能力が高いというか空中で素早く姿勢を変えていたので機動力向上の何かがあると思います。だから対応するには相手の行動を制限するしかないかなと思います。」
「うん、うん...。結構な観察眼だね君。」
圧倒的な文章量に奈穂さんが気圧されている。存外口が回るときは凄いよな、こいつ。
「確かに今ある手札じゃ行動制限という答えしかない。けれどね、あれはまだ何かを抱え込んでる戦い方だったね。多分押さえつけみたいな行動抑制じゃ役不足な程。それと、不可視の攻撃だけど貫く感じの突き攻撃じゃなくて斬撃みたいな面を切る攻撃だね。ただ、あれに関しては分かればどうってことはないね。粉塵の中じゃはっきりと目で見えるから一番憂慮すべきはあの再生能力とまだ隠しているであろう手札、って感じかな。」
そんな感じで3人堂々巡りの会話をしていた俺らを切り裂いたのは青木兄さんと文野だった。
「すまん遅れた!あ、どうもはじめましてお話は聞いております。青木江西です。」
青木兄さんは来て早々奈穂さんに挨拶をかましていた。
「君たち、もしかしてこの私の知能が必要だったのではないかね!」と文野はドヤ顔でこっちにそう言ってきた。いや、必要では...あるか。
「ああ、そのインテリうんたらが至急必要だからちょっといいか。」そうして新たに2人を招き入れて話し合いは更に巡りだした。
「ほうほう、その化け物の対抗策を考えていると。さては自殺志願者じゃな?」
「ンなわけあるかぁ!」
確かに無謀だとは思ったがそこまで言いうか。まあ分からなくはないが。
「まあ、あるよ。打開策。」
「そうだよな、打開策なんてそうそう...、あるのぉ!?」
「つまりだね、殺害は9割9分9厘不可能だから捕縛という方向に転換すれば可能性は3割増しぐらいにはなる。まず盤面の整理からした方が分かりやすいからするね。」
そう言うと、どこからともなく文野は萌葱町の地図を持ち出してきて、そこに黒のマジックで書きこんでいった。
「まずこの×ポイント。ここがあの化け物の出現ポイントね。んで、ここをグルーっとあの青白いなんかで囲む。これが初撃の対策ね。ちなみにここにトラックがあるんだけど、駐車している配置的に前回霞城さんが居た方向が一番爆発の威力が強いのは確認済みだからこっちには坂下のアホを置いておく。」
文野そう言ったとたん全員が首を縦に振って同意した。人望があるのやらないのやら。
「そして反対側には霞城さんを配置する。こっちは背後が萌葱山だから特に気にする必要はないと思う。そして左右は青木君と凩君のタッグ、私と和泉君のタッグで組もう。まあタッグを組むのはどっちでもいいんだけど一番大切なのは機動力だよ。青木君はバイクがあるし私にはこれがあるからね。」そう言いながら文野は、ずっとフヨフヨしているドローンを手に取った。
「これで運べる重量は約120㎏ほど。人一人ぐらいなら十二分に運ぶことができるってわけ。これらを使って私たち、非戦闘要員4人は移動する。そこからは私たちの仕事は補助役だよ。霞城さんに対する攻撃をできるだけ防ぐ。二人ともあの青白い障壁を出せるでしょ、それを使って攻撃を防ぐ。まあ防ぐというよりは受け流すに近いかな。ほら、和泉君がやっていたみたいにさ逆方向に曲げることで流れを変えるアレ。アレを用いることである程度攻撃を防げるとは思う。ただ一つだけ言うのはこれは机上の空論に近しいものだということは理解してね。」
同意するように奏介が補足する。
「確かにアレをすぐ生み出せればできなくはないだろうけども、あそこまでの強度を保つには生み出すのに30秒ぐらいは欲しいね。すぐさま展開するのは難しいかも。」
「うーん、であれば設置罠みたいな感覚かな。それと霞城さん、大技を放つのは控えてください。あの規模じゃ街の被害の方がでかすぎます。というか打たれる側の恐怖をわかってください。青木君が居なければ私、瓦礫に押しつぶされてましたからね。それに、大技を放ってもダメージの方がほとんどなかったみたいだから無駄に体力を浪費するよりもちまちまと解析を進めるべきだと思います。それと、徐々に下がって被害を街から山に移しましょう。そうすれば気兼ねなく暴れることができますからね。」
地図に矢印を描きながら文野が喋っていると、坂下さんが15時となったことを伝えてくる。
「もうそんな時間なのか。じゃあ最後に、誰も死なないように頑張っていきましょう!」
そう文野が言って、その場にいた全員が呼応するように返事をした。
そして俺たちは、聖夜前災を解決しに挑むのだった。




