鈍く光るはいつかの夢
初なろう投稿です!
いつもはTRPGの動画投稿しているのでもしよければどうぞ
ちなみに、動画と小説は互いにネタバレ有なのでご注意をば
あの事件のことを今でも覚えている、6年前の冬。今思えば、それが今の俺になった転換点かもしれない。それほどあの事件は俺自身にとって色濃く残った。
その事件の名は、聖夜前災。過去数年の間で起きた大事件の1つだ。
事件は表向きには下水道の配管に溜まったガスになんらかの形で着火され爆発したとされているが、アレはそんな簡単に処理されるべき事件じゃない。
本当の原因は烏丸コーポレーテッドと鈴埜宮重工の合同開発の失敗による爆発。
彼らが何をしようとしていたのか、それを知っているのは俺こと凩和葉と、それぞれの道に進んでいった3人、そして恩人の坂下鎮壱級職員。厳密に言えば、情報自体を知っている人間はもっといると思うが、実際に生きて体験したのはその5人だけだ。
そして、今から語るのはそんな6年前に起こった聖夜前災、その全貌だ。
2011年12月23日、当時高校二年生だった俺は何気ない日常を過ごしていた。その日は友人と駅前にできた新しいカフェである喫茶店『klak』に足を運んでいた。
一つだけ言っておくが、別にこのとき一緒に来たのは彼女とかではなく男友達だ。そして、共にこの聖夜前災から生き残った数少ない仲間でもある。名前を和泉奏介と言い、高校進学の際にわざわざここへ一人暮らしをしに来たらしいと聞いたときは嘘だろと思ったが、実際彼の部屋を見て「マジか」と声が零れるほどには生活レベルがカンストしていて今でもその点には尊敬している。
まあ、そんなことは置いておいてだ。そのカフェからの帰り、大体午後3時を過ぎた頃だろうか。大型トラックが何台も通り過ぎるのを見届けながら駅前を去り、住宅街へと踏み入る。祝日であったから家で過ごしている家族も少なくない。そんな各々の日常の合間を縫い、俺は奏介を帰宅ついでに家に送っていた。空を見上げると徐々に雲が陰りを見せていた。
そんな平和的な日常の最中、それは起きた。
鼓膜を破らんとする程、大きな音圧とともにやって来る爆風。
網膜を焼き潰さんとする程、眩く光り輝く爆炎。
呼吸器に異常をきたさんとする程、舞い散る噴煙。
それらが告げた、聖夜前災が起こったということを。そして俺らは見た、この爆心地の中で揺れ動く人らしき何かを。
長い銀髪、華奢な体は強く握るだけで折れてしまいそうなか弱い存在。しかし、この場ではその誰よりも強く、強靭に振る舞っている。そして、彼女は一糸も纏わず、この爆心地の中を駆け出して行った。それとは入れ替わりになるように、スーツを着た男がこの爆心地へと入ってきた。そして、この男こそが俺の恩人であり憧れである坂下鎮さんだ。
坂下さんは周囲を見渡し、すぐさま俺らの元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫か、大きなけがは...無さそうだな。立てるか?」と、声をかけてくる。9か月前に起きたあの災害もこんな感じなのだろうかと、無意味なことを思案しつつも手を借りて立ち上がる。
「俺はこういうものだ。」と警察手帳を胸ポケットから取り出した坂下さんは開いて俺たちに見せつける。そこには、『警視庁公安部対神性特務課壱級職員 坂下鎮』と印字されていた。そして、警察手帳を閉じて仕舞い込みながら、
「いきなりですまないが、時間がないんでな。君たち、1時間前はどこにいた?」と、坂下さんは聞いてきた。なぜそのようなことを聞くのかと考えたが、こんな状況では思案に耽るもへったくれもない。正直に駅前にできた喫茶店にいたと話すと、「そうか」と一言だけ告げて坂下さんは土煙の中を切り割って走り去っていった。
俺ら二人は唖然とし、互いに今が現実なのかと確かめようと頬をつねってみたりしていたが、ここで俺は気づいてしまった。
爆発が起きた方向は俺らが帰ろうとしていた方向であり、その先には帰りを待っているはずの家族がいるということだ。つまり、俺の家族はこの爆発に巻き込まれてしまったのではないのか?
そう考えると居ても立ってもいられずに、俺は家の方へと駆けだしていった。
結局のところ、俺の家族が戻ることはなかったのだが...。
奏介は何も言えずに横に立って俺の背中を擦った。その心遣いがなんとも言えぬほどに染みた。頬を伝う水分は酷く冷たく、これが現実であると、これが変えられようのない真実であるのだと伝えてきた。
そして、一頻り涙を流してもう枯れ果てた頃。空間を劈くように、破裂音が崩壊した街中を駆け巡った。どうやら幻聴ではなく、奏介も同じ音を聞いたらしい。
周囲を見渡し、何が起きたのかと確認をしようとした瞬間、地が揺れる。体の芯から燃え上がるような痛みと苦しみを感じる。重力に従って体が地面へと吸い寄せられる。だんだんと、瞼が重くなる。
やがて、重力にすら抵抗できなくなり瞼を閉じ切った俺の目が次に見た光景は、喫茶店の中だった。
どうやら奏介も俺と同じように意識を取り戻したようで二人して周囲を見渡している姿は周囲から見ても奇妙に映っているだろうが、その時の俺たちにはそんなことを考える余裕はなかった。
そんな中、カランカランと扉のベルを鳴らしながら一人の男が喫茶店の中へ入って来る。そしてその男はまっすぐ俺らのところへと歩いてきた。その男のことを俺らは知っている。
「やあ二人とも。さっきぶり、かな?」と、男が喋りかけて来た。
ここからが本当の聖夜前災の幕開けだ。