第9話 少女への軛
「あぁ、ついに壊れちゃったわけ?」
葡萄は『妄言』をぼやきだした彼を、少しだけ哀れんだ。
雫の手元で、エメラルド色に輝く石の輝きが生成される。
「させない」
彼女の弾丸がそれを砕いた。しかし、
「いや、それでいい」「!?」
この“滴”は砕いて使う。途端、彼の受傷が快復する。
(あの黒い靄、塵のときとは違う――気味が悪い)
「あなた、何者なの?」「ひねくれ女に答えたくないな!」
次は後ろ手に紫の石粒を生成した。
これはまだ割られるわけにいかない。
(さっきのが肉体の快復、今度のは――この場に意味のある能力であることを祈ろう)
「その後ろ手に隠したものは何!?」
「せいぜい確かめて」
階段の上、彼女の頭上へとそれを投擲した。
こんな肩の使い方すら、俺には生まれて初めての経験だ。
彼女はそれの砕ける前にと、雫へもう何発かを叩き込もうとするが、彼の魂魄鎧が体表から弾丸を逃がす。
「ッ、くそ、戦闘中の成長とかいらないシチュなんだけど!」
「今の音で人が来る、この有り様をどう言い繕うつもりだ?」
「あんたが死ねばどうとでもなるって!」
(またそれかっ、あの塵、靄?
あれを再現できない以上、こうするほかない)
階段の壁面に傷はなく。
(エーテル・オルゴンの弾体はその気になれば、人体のみに作用する。
状況としては俺が勝手に流血していたことになるか、貫通してるのに――やっぱあの女殺そう、靄さえ使えればそれが一番だが、あの女を『喰う』のはそれはそれで)
「ぞっとしない」
やっとの思いで立っているが、血が足りていない。
紫の石粒が破裂する、壁にぶつかった様子もないので、ある程度は破裂のタイミングを任意で調整できるらしい。自分で生成したものの勝手ぐらいは、もっとわかっておきたいものだ。
彼女は口を塞ぎながら、壁の陰へ逃げ込んだ。
弾倉を装填し直す間、身体に変調があった。
(やはり因子を浴びたら気道とか関係なく体表に吸収されるの、面倒)
「うそ……」
身体が痺れて、力が入らない。魂魄鎧の銃器が解除され、消える。
彼女はおそるおそる、階下を覗くが――、彼の姿はすでになく、流血さえ、薄ら汚れ程度のしみとしか見受けられない。
(コンマ数秒で逃げ切られた?
今人を呼べば、あいつが神秘種との混血だってのは間違いないんだ、今なら必ず殺せる、はず)
「そうだ――あいつを解剖すれば、あいつが神秘種だって痕跡が出る。
父さんの研究も、まったくの無駄じゃなかったというなら……せめて私の役に立ってくれたって、いいじゃない、ねぇ」
あの紫の粒石が破裂してから、思考を侵蝕されている。
(あいつに不利益なことを、私は話せない、そのような行動を取れない“軛”)
「あぁ、バカ。
死ぬより面倒な呪いくれやがって――」