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第7話 鎧装《マテリアルライド》

 なんだか雫の知らない単語が生えてきた。

 人殺しとはどう考えても、昨日の件以外ないだろう。それより過去に人を殺した覚えがこちらにはない。


「混ざりもの?」「とぼけるな、クソ野郎」

「人を面と向かってクソ呼ばわりか」「そうでしょう、あの三人を殺しておきながら」

「人聞きの悪いことを云うけど、俺が誰を殺したって」

「――鎧装マテリアルライド


 彼女の呟きとともに、その手には紫色の長物、よりにも銃器が召喚される。

(狙撃型の魂魄鎧?珍しいものを)


「まさか学内で撃つ気?

 正気か、模擬戦闘訓練場ラージシミュレーターでもないのに、許可されるわけが」

「神秘種が人間へ擬態した場合、魂魄鎧の展開が許可され、生死を問わず制圧が可能となる」

「仮に俺が、あんたの云う“混ざりもの”だったら、それ撃っていい口実にはならないだろ」

「死んでから人外の痕跡が出れば、殺人に問われることはない。

 亜人やハーフを排斥する口実なんて最初からザルに設けられてる、あんたの力は私の見立てが正しければ、すでに人の領域からはみ出している。失敗してもこの程度なら許容範囲よ、社会から人のまがい物がひとつ消えるだけ。

 神秘種の擬態工作を未然に処理したと、ウエは大助かりでしょうね。

 というわけで飴なんとかくん、逃げるなら今だよ、私も殺しやすくなるから」


(人外の疑いが、こんなに早くかかるなんて。俺だってまだ自分が何者だかわかっちゃいないんだぞ!?)

 彼女の魂魄鎧の評判は聞いている。魂魄鎧の中でも特殊な追尾型の弾体を扱っているとかなんとか。

 一両日程度でいきなり動けるようになるではなければ、三人を取り込んだところで弾丸から逃げ切れるほどの走力には自信がない。


「神秘種なんて、いるわけがない」


 それは雫が自分自身に言い聞かせるようでもある。


「ならなぜたじろいでいるの」


 確信がないから、だが武器を構えて威嚇されれば誰だって、たじろぐぐらいはあるだろう。


「あの三人がどこに行ったかは知らない、本当だ」

「見苦しい」「は?」

「どうやったかは知らないけど、あれが魂魄鎧による超常ではありえない。

 三人もの人間が突如として消えるなんて、あの場であなたになんの計画性もなかったと云うなら、なおのこと」


(まさか、向こうは確信がない?

 無駄話が過ぎるんだよな、さっきから。わざわざ逃げる時間を設けているところからして――だが)


「その銃を下ろせ。お前こそ人殺しになりたいの」


 耳介を弾丸が掠める。


「弱いって醜い。私つくづく、あんたみたいなの生理的に嫌いなの」

「なに、自分がそうだから?」「!」


 蹲る彼へ躊躇なく弾丸が叩き込まれた。


「一昨日の塵化や力の発動、欠片も痕跡がない。

 解剖すれば痕跡くらいは割れるはずだけど――まさかもう死んでないよね?」


(なんなんだよ、こいつは!?)


「いやあれがまぐれだってのなら、なおのこと入念に殺さないと」


 どうにも殺害の現場を見ていたらしい。あの場で第三者の気配まで察知する余力は俺になかった。

 すると前振りは、こちらの力と手段が読めていないから。

 交渉や詐術はすでに通用する段階を通り越している。

(なんで数日のうち、二度も殺されかけなきゃならない)


「俺が、何をしたって言うんだ」

「神秘種はそこに在るだけで有罪なのよ。

 人の文明に在ってはならない」

「俺が人間でも、お前はそう言える?」

「どのみち碌な魂魄鎧も使えない弱者が学内で死んだところで、都合よく揉み消せるわよ。

 あなた、身寄りなんていないでしょ。国の扶助におんぶに抱っこで依存して寄生してる屑のくせに、挙句人殺しって……死ねば色々考えなくて済むわよ」

「……ざけるな」

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