第5話 ハンドミラー
「それで、なにを聞いて回ってるんです」
「見えないきみには関係ないな」「――」
小此木は知っているならなにか話せ、見えないやつに用はないと。
乗せられてやるのもいいが、
「ほかの寮生の友だちに俺から訊く手間を省いてくれません?
このままじゃおちおち眠れそうにない、刑事さんたちは僕みたいな非力なやつが枕を高くして眠らせてくれないんです?」
「なるほど、いい性格をしている。褒めてないぞ少年。
あの三人は近隣で地上げ屋やっていてな、おまけに昨晩、学生を路地裏へ連れ込んでカツアゲしたんじゃないかと――以降の消息がわからなくなっている」
「本当に……お役に立てそうにありませんね、僕などでは」
「そうだろう、ほれ、行った行った。
若い子の本分は勉強だろう」
なぜ嗅ぎ付けられたとか、そんなことはさして気にならない。
(路地裏へ俺が連れてかれるのを見ていたやつがいる。
でも刑事たちから物々しい気配を感じないのは、殺人を確信できないからか。
死体なんて見つかりようがないからな、だが――見ていたとなると、彼らの商売敵とかか?
だとしたら、面倒くさいことになったな)
雫の推測では、彼らの消息を追っているのは普段から彼らの商売ないし生活を知っていて、三人の異変へ勘づいた奴らだ。彼らの上役か競合者か、いずれにせよ、案外彼らが警察とつながって様子見をかけているのかもしれない。
この場合死体がないのに自首してしまうのと、目撃者が俺を告発するまで待つのとどちらがいいんだろうか。どちらにしても、俺自身にろくな事がない。
(だいたい殺すつもりがあってそうしたんじゃないしな、先に仕掛けた向こうの方がよっぽど好戦的だったんだ、あのバカどもが不幸な事故で死んだところで、自業自得じゃないの?
あんな連中のために人生の一分一秒無駄にするとか、たまったもんじゃない)
量販店でハンドミラーを買った。
大きいものは手洗い場で構わない、少しづつ生活を変えていこうと想う。