第2話 模範的問題児
「――飴川、飴川雫、なんだ、いないのか?
まぁあの落ちこぼれが単位落としたところで、な」
教員の突き放した言い草に、品のない輩の失笑が聞こえる。
飴川という少年の女々しい名前や態度からして好きなやつはいないだろう。
私も彼という人間が、なんとなく嫌いだ。
具体的に話したわけでもなければ、関わることもない人種。
彼が『浮いている』から苦手、とでも言おうか。そんなことをいちいち言語化するでもないが――名前が出るだけで、私の空間は不快に包まれる。だから彼という存在は有害なんだろう。
「じゃあ次、坪内。魂魄鎧とはなにか」「はい」
起立して答える。
「あらゆる伝説を幻想へ還す、魂魄の鎧装。
人類の叡智が産み出した、我々を霊長の長たら占める力です。
鎧と字を宛てますが、実際は人体の外側へ拡張された『エーテル・オルゴン』が各種防具や刀剣の形を取り、計器での計測が困難な特殊な質量体として顕現する。
エーテル・オルゴンの活用は、龍族や妖精種固有の権能を参照しており――」
「いや、そこまででいい。
神秘種はこの授業の命題ではない」
「はい、先生」
坪内葡萄という少女は、教員側からは優秀だがクセのある問題児と見られている。
(神秘種へのあのこだわりさえ捨てれば、模範的な生徒なのだが)
「ぶどーちゃん」「なんだ、香苗か」
「ぶどーちゃんはいつもお肌ツヤツヤ髪はさらさら相変わらずのクール系美人さんだよねぇ」
授業が終わると、彼女のところへ絡む友人たち。
ただ、香苗というこの子に限ってはある意味で異質だった。
彼女は葡萄へ耳打ちする。
「さっきの授業、わざとやったんでしょ」「なにが。忘れた」
「神秘種の研究家だったんだっけ、お父さん」「――」
普通は文字通りにそう呼ばれる。
「それぐらいの噂は流れてきますよ、本当なの?」
葡萄は苛立たしげに立ち上がる。
「うちのクソ親父の話は二度としないで」「ひぇ、わかったよ」
(調べたってこと?
校内でそれを話してるやつがいるわけない、情報通のこの子らしいけど)
「……検閲を怖がって、碌に知る機会を与えないのは公正な授業じゃない」
「じゃあ私にもぶどーちゃんのこと知る権利があると想うなぁ、親友でしょ?」
勝手にそう言っているだけの厚かましい女、いったい何が楽しいのやら。
彼女、益子香苗が情報通のお喋り好き悪戯好きである限り、葡萄は彼女を心の底から信用する日は訪れないだろう。断言できる。ただこれ以上、余計な会話でカドが立つのもよろしくない。