第1話 人を喰らう
見えないのについている眼など飾りに過ぎない。
実際その通りだというのに、潰されたなら痛みばかりはしっかりと感じているのだから憎たらしいことこの上ないことだ。
「おい、こいつ何も言わないんだけど」「つまんね」
「片目潰したんだからもう片方もいっとこうぜ」「!?」
蹲っていた少年はぴくりと震え、それが囲んだ三人の嗜虐心を誘ったらしい。
蹴り続けている。
「おいこいつビビってるぞ!」「そろそろホントに死ぬんじゃ」
「それで誰が困るんだよ」「ギャッハ、それもそうか」
「ぐぅの音も出ねぇで蹲ってやんの」
「なぁ死んだ?死んだ?」
こいつらに感じる恐怖などなく、ただこの痛みをどうにかやり過ごす気力が保てるか、目下彼の関心はそれだけだ。
「――」「こいつ、ほんとなんも言わないな、死ぬまで震えてやがんの?」
「生きてたところで何もできないだろ、俺たちが誰かも見えてないんだから」
「にしても財布すら持ってないとはな、ほんとつっかえねぇ」
三人組が立ち去ろうとしたときには、既に遅かった。
どす黒い瘴気は路地裏を充満し、三人組の恐怖するうち、その手足を塵へと変えている。
「な、なんだこれ」「どうして俺たちの腕が」「身体が、塵に――やめろ、やめてくれ!?」
三人組のいた路地裏にはもはや痕跡ひとつ残っておらず、少年は静かに立ち上がった。
「これが、『視力』?
うッ――あァ……そうかよ、みんなこんなものを当たり前に見ていたのか。
おぞましいな、狡い」
なぜ俺より愚かしい連中には目が見えて、俺には見えなかったというのだ。
俺より軽率で下品な輩が、こんなにも鮮やかな世界を見て――愉しんでいる。
おぞましくならないはずがない。
「いや、そもなんで視えてんだよ、さっきの連中は」
突如として湧いた視力の在り処、これが何処からか奪われたものなのはすぐに察せた。
潰されたはずの瞳――ガラスに映る、俺の姿。両の眼に傷はなく、赤黒いとぐろをまいたと思えば、虹彩は鳶色に戻る。
(わかる。一度も見たはずないものなのに、なにもかも色が、姿が、形が。
けどまぁ……)
「あぁ、喰ったのか。俺が」
人を、同族を殺したというのに、一切の感慨がない。
歓びも哀しみも、罪悪感すら。