旅立ち②
「...」
「...」
注文が落ち着いてきた頃、ライムと店長は厨房の椅子に座って休憩をしていたが、先程の一件もあり、さながら葬儀の様相を呈していた。
「...すいませんでした。」
「いや、俺のほうも悪かったな、無理させちまって」
「いえ、僕がダメダメだったせいで...」
「ダメダメって...まだ働き初めて一月もたってねぇだろ?そんな思い悩む必要もねぇって...それよりみろよ、あっち。」
ニヤニヤしながら見てくる店長に指さされたほうを見ると、そこには酒が回り景気良く殴り合ってる二人の漁師が
「え、えぇ?」
「だからいってんだろぉがよ!いい加減魔道具船につけろって!」
「いい加減にするのはテメェじゃボケガキがァ!そんなもんにかける金も予算も経費もないわ!んなことよりてめえはさっさと漁師の勘でも鍛えんかいアホンダラァ!」
「金ばっかじゃねぇか!」
ベテラン漁師の綺麗なパンチが若漁師の腹を窪ませると、店中でおぉっと歓声があがる。
「くっそ...いいぜ!じゃあジジイども全員に見せてやるぜ!魔法ってのをよぉ!」
「なに?」
言うな否や若漁師は懐からなにやら文章の書かれた紙を取り出してそれを両手で広げた。
「...」
一瞬の静寂を彼らを包む。
若漁師はすっと息を吸うと一息で呪文を唱えた。
「平素より大変お世話になっております。ヅギシ村マリア丸船員のバリカタです。本日は御魔の魔法を使わせて頂きたく連絡した次第です。つきましては大変恐縮ではございますが、即刻の魔法発動をしていただけますと幸いです。取り急ぎの詠唱となり恐縮ですが、何卒よろしくお願いいたします、焔。」
「...」
「「...」」
一拍置いて若漁師のもつ紙から火の玉が勢いよく放たれた。
「うぉっっ!」
「おーすげー!」
「魔法かぁ!俺初めて見たぜ!」
「呪文長すぎんじゃねえか?」
口々に感想を述べる男達、それに気分をよくしたのか若漁師は
「みたかぁコラ!これが魔法よ!ほれもう一発!」
と再び先の呪文を唱え始めたところで
「───隙が、」
「多すぎるんじゃボケガキィ!」
「ぐぶぉっ、」
両手が塞がり無防備な状態でベテラン漁師に会心の一撃をくらいダウンした。
2R30秒、ノックアウト。