相模川にて陣を張る
ワミからの報告を受け、もののけ討伐軍は相模川で妖怪たちを待ち構えていた。
「お前ら、一体たりともここを通すなよ」
正二郎の率いる部隊は、橋を渡ってきた妖怪を攻撃すべく、橋の小田原方出入口付近に布陣。
一方で、辰巳たちは川岸から橋や対岸の様子をうかがっていた。
「うーむ、もう少し左か」
照之進は橋を渡っている妖怪を弓で射るべく、弓を構えながら攻撃位置を探っている。
その近くでは、市丸と三郎が並んで待機していた。
「い、いよいよ戦うのか……」
初の実戦が眼前に迫っているということもあり、対岸の街道を狙う市丸の緊張はいやが上にも高まっていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。落ち着いて戦えば何も問題ありませんから」
三郎は、市丸の緊張をほぐすために落ち着いたトーンで話しかけた。
「ありがとうございます。なんか、知久さんにそう言ってもらえると安心します」
戦闘車両同士通ずるものがあるのか、三郎の言葉は市丸に響いていた。
そして橋を挟んだ反対側の川岸では、辰巳とユノウが並んで橋を眺めていた。
「こうやって布陣しておいて言うのもあれですけど、たぶん妖怪たちは橋を渡ってきませんよ」
ユノウは率直な感想を漏らす。
「どうして?」
「どうしてって、こんな風に橋の周りで待ち構えているのを見たら、普通は渡ってきませんよ。どう考えたって、橋を渡ってる最中に攻撃されるわけですから」
「けど、橋を渡らなきゃこっちに来られないんだから、無理をしてでも渡ってくるんじゃないの? 例えば、朧車っていうのを盾代わりにするとかさ」
主要街道の橋だけあって、強度はもちろん、馬車同士が余裕ですれ違えるだけの幅が確保されており、朧車が走行するうえでの支障は何もなかった。
「確かに、普通ならそれも有効な戦術だと思いますよ。ただ、今回は市丸さんがいるんで、その戦法は使えませんね」
市丸に与えられた任務は朧車の撃破であり、対空ミサイルの戦果から考えれば、妖怪相手でも戦車砲は十二分に威力を発揮するはずであった。
「あ、そっか。そのためにあそこで構えてるんだもんな」
「向こうがどういう戦い方をしてくるかはわかりませんが、高い攻撃力を有しているであろう朧車を倒してしまえば、勝負はほぼ決まりですよ。ここでは大兵力を展開することはできませんし、遠距離攻撃の使い手が大勢いるとも思えません。そして橋を渡ろうとすれば、さっき言ったように集中砲火を浴びることになりますから」
「なるほど……あ、だからここに布陣したのか」
「そうですよ。偶然ここになったわけじゃないんですからね。地図で地形とかをしっかりと確認したうえで、『ここだ!』って思って提案したんですよ」
辰巳から妖怪たちの位置情報を聞いていたユノウは、地の利が活かせるこの場所で待ち構えるべきだと、正二郎に強く進言していたのだ。
「あ、これユノウの案なんだ?」
「ええ。正二郎さんに『ここがいいですよ』って提案したら、『わかりました』って快諾してくれたんです」
冒険者に指図されたくないという思いが、正二郎の中に少なからず存在していたものの、出発前に吉右衛門に言われた言葉や、三郎の圧倒的な戦果を前に、提案を受け入れるしかなかったのだ。
「そうなんだ。ところで、もし攻撃で橋が壊れちゃったらどうすんの?」
「ご心配なく。戦闘によって生じた損害は、北条家が責任をもって補償することになってますから」
「じゃ、問題ないな」
「あ、そうだ橋といえば、この戦いが終わったら、また頑丈なコンクリートの橋を切って出してください」
辰巳は酒匂川に差し掛かった折、コンクリート橋を切って出していた。
「あの二人が渡る用だろ、わかってるって」
市丸と三郎はともに五〇トン近い重量があり、いかに頑丈な木造橋といえども、耐えられるはずがなかった。
「お願いし……」
ユノウが話している最中、強烈な発砲音が相模川に轟いた。




