対空戦第二幕
「瀬戸大将殿、この辺で偵察を出してみてはいかがでしょうか?」
軍勢が戸塚宿に差し掛かったところで、子泣き爺が進言した。
「偵察か……」
「だいぶ小田原に近づいてきたことですし、そろそろ敵情を把握しておいた方がよろしいかと」
「そうだな……よし、提灯を偵察に出そう。おーい、ちょうちーん! 小田原方に向けて偵察を二体出してくれぇ!」
瀬戸大将の指示を聞き、上空の飛行部隊から二体の提灯妖怪が小田原の方へと向かっていった。
「もし小田原方の軍勢が出てきていたとしたら、その場合はどうなさいますか?」
「基本的には飛行部隊で対処するつもりだが、状況次第では朧車も出すかもしれないぞ」
「望むところです。なんなら、偵察にも出しましょうか」
順調に進軍が進んでいることもあって、子泣き爺を含め、軍勢内には冗談を言えるだけの余裕が存在していた。
「戯言を申すな」
瀬戸大将は笑っていたが、ほどなくしてその笑いは吹き飛ぶことになる。
なぜなら、偵察に向かっていた二体の提灯妖怪が、いきなり爆砕したからだ。
「え……」
突然の出来事に、瀬戸大将は状況を全く飲み込めていない。
「ちょ、提灯が……」
子泣き爺は茫然とした様子で、提灯妖怪が飛んでいた方向を見つめている。
「……おい、なんだ今の?」
「わかんねぇよ」
のっぺらぼうや骸骨武者などにも動揺が広がり、軍勢の足は完全に止まってしまった。
「小田原へ偵察に向かったものたちも、あんな風にやられたのか……」
ようやく状況を飲み込んだ瀬戸大将は、絞り出すような声でつぶやいた。
「……これから、いかがなさいますか?」
子泣き爺の顔からは、余裕が完全に消え去っている。
「いかがも何も、進軍以外ないだろう。皆の者、何を止まっておる。進め、進め!」
瀬戸大将は動揺を隠すように大声を上げ、軍勢は再び小田原へ向けて動き出す。
ただし雰囲気は一変しており、特に飛行部隊の中には重苦しい空気が漂っていた。
「……瀬戸大将殿、進軍するのはよろしいのですが、偵察の件はどうなさいます? 今一度飛行部隊に命じますか?」
「この状況でできるわけないだろうが」
「でしょうな」
「代わりに騎馬四体を偵察として出し、なんとしてでもあの攻撃を放った奴を見つけ出す。離れてはいるが、馬で駆ければ捕まえられるはずだ」
瀬戸大将は、攻撃は提灯妖怪が飛んでいた場所の近辺から放たれたものと考えていた。
「瀬戸大将殿は、あの攻撃は地上から放たれたものとお考えなのですか?」
「そうだ。空に敵らしき姿はなかったし、提灯も何かに遭遇したような感じではなかったからな」
(あの空飛ぶ怪物の仕業でなかったとは……)
「なるほど。でしたら、朧車も偵察に出しましょう。あの火力と機動力があれば、大抵の敵は逃さず撃破できるはずですから」
「ならば、朧車にのっぺらぼうを二体乗せて出してもらおうか」
「その二体は行動要員ですな。わかりました、すぐに準備して出発させます」
瀬戸大将の命を受け、偵察部隊は出発していったものの、攻撃したものを倒すことはおろか、その正体を暴くことすら叶わずに戻ってくることになるのであった。
「提灯撃墜」
三郎はレーダーから反応がなくなったのを確認し、辰巳に報告した。
「わかりました。……ユノウ、応答してください、ユノウ……」
「……はーい、ユノウでーす」
「あ、ユノウ。偵察っぽい動きを見せた二体の飛行物体がいたから、それをミサイルで撃墜したよ」
安全圏からの攻撃だったこともあり、辰巳は日常会話のように攻撃結果を告げた。
「あ、やっぱ偵察でしたか、わかりました。他に動きとかはないですか?」
「特にないね」
「そうですか。じゃ、また何かあったら教えてください。……やっぱ偵察が出たみたい。けど、全部撃ち落としたって」
辰巳との通話を終えたユノウは、奈々に状況を説明した。
「本当にすごい攻撃ですね……」
奈々は改めて驚嘆するとともに、若干の恐怖も覚えていた。
「たぶん向こうは今、正体不明の攻撃に動揺してるでしょうね。いくらもののけといえども、あんな攻撃は見たことないでしょうから」
「私も昨日見ているからかろうじて受け止めてますけど、もし見ていなかったら、たぶん撃ち落としたって聞いても信じてなかったと思います」
「そのためにわざわざ実演の機会を設けたわけだからね。まぁ、あんな都合よく偵察がやって来るとは思わなかったけど」
ちなみに、ミサイルの威力を披露するため、ユノウは魔法で模擬標的を飛ばすつもりであったのだ。
「向こうはまた偵察を出してきますかね?」
「偵察は出すかもしれないけど、空を飛ぶものは出さない……というよりも、怖くて出せないでしょうね。これは攻撃に限ったことではないけど、正体がわからないと対策の立てようもないから」
「あの攻撃の場合、正体がわかったとしても対策を考えられないと思いますけどね」
奈々は妖怪たちに少しだけ同情した。




