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過去と向き合う

 無事目的を果たし、辰巳たちはそのまま河越への帰路につこうとしたが、氏元が「急な来訪とはいえ、秀頼様をなんのもてなしもせずに帰すわけにはいかない」と言って譲らなかったため、仕方なく小田原城に一泊することとなった。なお、仁は重要参考人として、しばらく小田原に留まることになっている。


 その仁を除いた五人は、城下にあるかまぼこ屋へと向かっていた。


「こっちでも、小田原はかまぼこが名物なんだね」


 道沿いに立ち並ぶかまぼこ屋を見て、辰巳はそんな感想を漏らした。


「そうですね。やっぱり魚がたくさん獲れて、良い水があったら、自然にそういう食文化が育まれるんでしょうね。ちなみに、あたしは自分でかまぼこを作ったことがありますよ」


「へぇ、かまぼこって自分で作れるんだぁ」


「作れますよ。ちょっと面倒くさいですけどね。一時期釣りにはまってたことがあって、カワハギとかキスがすごい釣れた時があったんですよ。ああいう白身魚はかまぼこには持って来いですからね、思わず作っちゃいましたよ」


「ふーん」


 そんな風に辰巳とユノウが他愛もない話をしているうちに、目的の店に到着した。


「こんにちは、伯父さんいますか?」


 この店の主人は文の兄である。


「おぉ、夏じゃないか。久しぶりだな。今日はかまぼこでも買いに来たのか?」


 店の奥から現れたのは、前掛け姿の大男だった。


「いえ……あ、それもあるんですけど……」


 夏がこの店を訪れた理由。それは、産みの母が殺害された場所へと赴き、その御霊みたまを弔うためであった


「大丈夫」


 後押しするように、奈々は夏の背中をポンと叩いた。


「そちらのお嬢さんは、夏の友達かな?」


「初めまして、河越城家老、大道寺直孝が娘、大道寺奈々と申します」


「これは失礼いたしました。私は夏の伯父、佐平(さへい)でございます。姪がお世話になっているようで、ありがとうございます」


「お気になさらず。“甥御”さんのお世話なんて、全然してませんから」


 “甥御”という言葉を聞いた瞬間、佐平の眉が僅かに動く。


「はっはっは。夏は男っぽいところがありますからな」


 佐平は笑いながら軽く受け流した。


「……伯父さん、私、お母さんから全部聞いたの」


 夏は意を決して話し始めた。


「ところで、かまぼこはどれを買うんだ?」


 佐平は夏の言葉を無視するように、話題を変えた。


 が、夏は臆することなく話を続ける。


「氏元様にも会って、話をしたから。もう全部知ってるから」


 それを聞いて、佐平の動きが止まる。


「氏元様に会った? ……氏元様は、なんとおっしゃられた?」


「『七松丸は既にこの世にはいない』と、おっしゃられました」


 佐平は氏元の言葉を聞き、夏が“本当の平穏”を手にできたことを知った。


「そうか……。で、母親の仇を討つためにここへやって来たのか?」


 夏は慌てて首を横に振る。


「違います違います。その……弔いに行きたいんです」


「わかった、案内しよう」


 佐平は店を閉めると、辰巳たちを引き連れて、街の背後にそびえる山の中へと入っていった。

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