小田原城へ
「お、なんか城っぽいものが見えてきたけど、あれ小田原城かな?」
辰巳が指差す先を見て、夏がうなずく。
「あ、そうです。本当にあっという間ですね。なんだか夢みたいです」
「どうやら、あそこが目的地のようだね。それで、僕はあの城に着陸すればいいのかい?」
「いやいや、さすがにそれは色々とマズいと思うんで。……あ、海岸って下りられます?」
小田原城は海岸近くに位置していた。
「海岸? 岩場はちょっと無理だけど、砂浜だったらオーケーだ」
「じゃあ、あそこの砂浜に下りてください」
辰巳は、お城の近くに見える砂浜を指差した。
「オーケー」
ヘリコプターは徐々に高度を下げていくと、激しい砂煙をまきおこしながら、小田原城から一番近い砂浜に着陸した。
「とうちゃぁく」
ヘリコプターはエンジンを止めてドアを開けた。
「奈々ちゃん、小田原に着いたよ」
「……」
「ほら、外見てみなって。気が晴れるよ」
奈々はユノウの腕をしっかりと掴んだまま、恐る恐る顔を上げた。
「……あ、海」
窓の外には白い砂浜と相模湾の大海原が広がっていた。
「あぁ~」
辰巳は海岸に降り立つと、コリをほぐすように大きく背伸びをした。
「まぎれもなくあれは小田原城だ。かように早く移動できるとは、ヘリコプターとはすごいものだな」
吉右衛門は小田原城を見つめながら、感嘆の声を上げた。
「凄まじい音だった。まだ頭の中で響いてやがる」
初めて聞いたエンジン音がよほどうるさく感じたのか、仁は海を見ながら耳を休ませていた。
「ごめんね夏。私の代わりに道案内をさせちゃって」
奈々は元気を取り戻すと、真っ先に夏へお礼を言った。
「気にしないでください。それより、気分はもう大丈夫なんですか?」
「うん、もう平気平気。これなら氏元様と対峙しても問題ない」
奈々のコンディションが万全になったのを合図に、辰巳たちは出発した。
海岸から小田原城までは徒歩でおよそ一〇分。城門に到着するや、辰巳はその存在感に圧倒された。
「ヘリからも見たけど、この城だったら俺でも籠城戦を選ぶだろうな」
「辰巳さん、あれ見てください。天守閣の造りが独立式望楼型ですよ」
辰巳は高校で習う程度の日本史知識を有していたが、ユノウは軽くそれを凌駕していた。
「独立式? ちょっと専門的すぎてよくわかんないだけど」
「じゃあ、ちょっと説明しますね」
「いやいいいい」
確実に話が長くなるなと思った辰巳は、右手を左右に振って不要の意思を示した。
「大丈夫ですよ、本当にちょっとだけですから。まず、天守の形には大きく分けて二つの種類があり、それぞれ望楼型と層塔型という名前で呼ばれています。望楼型は織豊期に建てられた天守によく見られた形で、代表的なものに姫路城や彦根城があります」
結局、ユノウの説明は“ちょっと”では終わらず、奈々が諸々の段取りを整えて戻って来る時まで長々と続いたのだった。




