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しゃべるものども

「いかにも、儂は壺である」


「しゃべった」


 辰巳は念のために壺を持って調べてみたが、しゃべること以外に変わった点は見受けられなかった。


「お主、いきなりジロジロと見回すのは失礼ではないか」


「すいません」


 辰巳は壺をそっと地面に置いた。


「それで、儂に何の用だ?」


「用?」


「お主が疑問に思ってどうする。特に用がないのなら儂は帰るが、いいか?」


「あ、はい」


 辰巳がうなずくと、壺はスーッと姿を消した。


「ユノウの言うとおりみたいだね」


「たぶん、召喚獣みたいな扱いなんでしょう」


「なるほどねぇ。じゃあ、花火を切ったら、『たまや~』とか言いながら出てくるのかな」


 気になった辰巳が、新しい紙を出すためにアタッシュケースに手を伸ばした瞬間、まるで自らの存在をアピールするかのように、クラクションが鳴った。


「あのぉ、僕は用あるんでしょうか?」


 迎は完全に放置されていた。


「あ、ごめんごめん。迎さんにはちゃんと用があるから。とりあえず、ドア開けてもらえるかな?」


 辰巳は両手を合わせて迎に謝った。


「わかりました」


 二人は迎に乗り込むと、自然な流れでユノウが運転席に、辰巳がドア脇の席に座った。


「えっと、アクセルにブレーキ、メーター、特に問題はなさそうだね。……マニュアル車運転するなんて久しぶり」


 ユノウはハンドルを握り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。


「これ、スピード出したら酔いそうなんだけど」


 ガタガタと揺れながら、迎は低速で草むらを進んでいく。


「それはしょうがないですよ。ここ、ただの草むらですから」


 軽く運転感覚の確認ができたところで、ユノウは迎を止めた。


「とりあえず、運転は大丈夫ですね。まぁ、問題があるとすれば、あたしがずっと運転しなきゃいけないことぐらいですかね」


 その言葉に迎が反応する。


「あ、道教えてくれれば、僕自分で走りますから」


「え、自走できるの?」


「できますよ」


 迎は軽くエンジンをふかすと、そのままゆっくりと動き出した。


「本当だ、普通に走ってる」


「なので運転が大変でしたら、任せてもらっても構いませんよ」


「……」


「ユノウさん?」


「……あ、ごめんごめん。もう、止めていいよ」


 迎はその場に停車し、二人は外へ出た。


「これで移動手段は決定かな」


「……」


「ユノウ?」


「え? あ、そうですね」


「……じゃ、迎さん、また明日呼ぶから、その時はよろしく」


「わかりました。では、失礼します」


 迎は別れの挨拶として軽くクラクションを鳴らし、姿を消した。


「ところで、さっきからずっと何を考えているの?」


「……乗り物自体が運転してくれるのであれば、別に車にこだわる必要はないんじゃないかなぁって」


 二人は移動手段について、自分たちが運転することを前提にして考えていたため、車以外の乗り物は候補から外していた。


「あぁ、確かに」


「例えばヘリコプターとか飛行機なら、小田原なんてあっという間ですよ。ちょっと、試しにヘリコプター切ってもらえませんか?」


「ヘリコプター……うーん、わかった」


 プロペラ部分に多少手こずりつつも、辰巳は見事に形を切り上げた。


「出でよ、ヘリコプター!」


 現れたのは、やや大型で流線形の機体をもったヘリコプターだ。


「やぁ、呼んだのは君たちかい?」


 ヘリコプターは軽い感じで二人に挨拶した。


「はい。早速ですけど、乗りたいんでドア開けてもらえますか?」


「オーケー」


 コックピットと客室、双方のドアが開く。


「俺、こっち乗るから」


 今度は辰巳が操縦席に座り、ユノウが客席に座った。


「おぉっ!」


 ずらっと並ぶ計器類や操縦桿を見て、辰巳のテンションが一気に上がる。


「辰巳さんって、ヘリ乗るの初めてですか?」


「初めて初めて。ユノウは?」


「あたしは伊豆諸島へ行った時に乗ったことがあります。その時乗ったヘリも、客室はこんな感じでしたね」


 ユノウが座っているのは一番後ろに設置された四人掛けシートで、前二列には通路を挟むかたちで一人掛けシートと二人掛けシートが設置されている。座席のシートピッチは狭く、ひざまわりは少し窮屈だった。


「それで、操縦は君がするの?」


 ヘリコプターからの質問に対し、辰巳は右手を左右に振った。


「いや、しませんしません。操縦は全部お任せします」


「オーケー。じゃあ、腕前を披露する意味も込めて、一回飛んでみよう。二人とも、シートベルトを着用してくださぁい」


 ヘリコプターがドアを閉めてエンジンを起動させるや、プロペラが大きな音を立てて回転を始めた。


「すげぇエンジン音」


「そりゃそうですよ、プロペラの真下にいるんですから」


「じゃあ、飛ぶよ。テイクオフ」


 合図と同時に、ヘリコプターは凄まじい風を巻き起こしながら原っぱを離陸した。


「おー、飛んでる飛んでる」


 辰巳は興奮を隠しきれない。


「耳栓のストックってあったかなぁ?」


 ユノウは窓の外には見向きもせず、初ヘリに戸惑うであろう夏たちへの対応について考えていた。


「この辺を軽く旋回するね」


 ヘリコプターは五分ほど夜空を飛行した後、元の場所に着陸した。


「二人とも、空の散歩はいかがだったかな?」


「最高っ」


「良かったです。それに座席の方も問題ないですね」


 こうして、小田原への移動手段はヘリコプターに決定した。

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