表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/86

詰むか詰まないか

「うーん……3三角成か」


 仁仙が指南書を見ながら将棋を指していると、慌てた様子で美影がやって来た。


「た、大変です」


「なんだ?」


「例の飯屋が襲われたようです」


「ほぉ。で、ご落胤殿は無事なのか?」


 仁は表情を変えることなく詰将棋を続ける。


「はい。直道と奈々、あと知り合いと思われる方々とともに、直孝様のお部屋にいらっしゃいます」


「そうか。……ところで、ご家老はご落胤の事実を知っているような感じだったか?」


「……そのことなんですが、お部屋には、京平(きょうへい)さんの姿もあったんです」


 その名を聞いて、駒を指そうとした手が止まる。


「間違いないのか?」


 京平は仁の部下で、夏を見張るように命じられていた。


「あのかっぱのような髪型は、京平さんに間違いありません。ただ、京平さんが裏切るなんて、とても信じられません」


 美影にとって、京平は色々と面倒をみてもらった良き先輩だったので、そのショックは大きい。


「確かに信じがたいことだ。だが、それを示すような事実がある以上、受け入れるしかないな」


 仁は持っていた駒をパチリと指すと、頬杖をついてしばらく盤上をじっと見つめた後、大きく息を吐いた。


「……そうか、京平を取られたか。うーん、京平を取られたとしたら、これは詰んだかもしれないな」


 仁はそうつぶやきながら盤上の飛車をつまみ上げて、駒台の上に置いた。


「お頭、ここは草月院様を頼りましょう。今、お呼びしてまいりますので」


 美影は仁の返答を待つことなく、部屋を飛び出していこうとした。


「待て、その必要はない」


「どうしてですか? 草月院様は必ずお頭のことを擁護してくれるはずです」


 美影の言うように、草月院は仁の占いに傾倒しており、処断されそうになっているとわかれば、理由の如何を問わず、擁護するのは確実である。しかも城主の生母の懇願となれば、重臣といえども無視できないはずだからだ。


「擁護されたところで、その場しのぎにしかならない。諸々の事情が明らかになれば、いかに重政様であっても、母親の要望を退けるであろう。それより、万一の時はすぐに逃げ出すよう、急ぎ各人に伝えてきてくれるか」


 仁は、潮時が迫りつつあると判断した。


「お頭はどうするんです?」


「俺はとりあえずご家老のお相手かな。来ないことを祈りたいが、そのうちお招きの声がかかるだろうからさ」


「わかりました、皆に申し伝えておきます。では、私はこれで」


 美影はがっかりした様子で部屋を後にした。


「思っていた以上に、あいつは忍者隊の再興に期待を抱いていたんだな」


 仁は申し訳ない気持ちになった。


 元々今回の企てにおいて、仁たちの主たる目的は忍者隊の再興であり、副目標的なものとして北条家への嫌がらせが存在していた。


 ところが時が経つにつれて、仁の中でそれぞれの比重が変化していき、今や完全に入れ代わってしまっていたのだ。


 そのため、忍者隊再興の芽が潰えようとしている状況にあっても、それほどショックは大きくなかった。


「事が落ち着いたら、櫛のひとつでも買ってやるかな」


 そんな風に独り言をつぶやきながら将棋を指していると、使いの者がやって来て、直孝が呼んでいることを告げた。


「……祈り届かずか」


 仁は持っていた歩を駒台の上に置くと、直孝の部屋へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ