衝撃の真実
「はい、なんでしょうか」
平静を装ってはいるが、心なしか普段より表情が暗い。
「心が落ち着かぬうちに、かようなことを聞いて申し訳ないのだが、夏殿が襲われることに関して、何か心当たりはあるかな?」
「以前奈々さんにも申し上げましたが、そのような心当たりは全くございません」
「左様か。……実はな、江戸だけでなく、小田原も夏殿を狙っていることが判明したのだ」
“小田原”という言葉を聞いた瞬間、文の眉が僅かに上がる。
吉右衛門はその反応を見て確信したのか、諭すような口調で文に語りかけた。
「文殿、どのような事情があるのかはわからぬが、江戸と小田原、双方から狙われておるというのは、尋常ならざることだ。今は守り切れておるが、この先刺客の数が増えてくるようになれば、それも危うくなる。解決策を見出そうにも、情報が少なすぎるうえに、満足に調査することすら叶わん。ゆえに、どんな情報でも欲しいのだ。他人に言いたくないこともあるかもしれぬが、そこを曲げてお願いする」
文はしばし無言でいたが、やがて咲、そして夏の顔を順番に見ると、意を決したように口を開いた。
「……このような状況になってしまっては、仕方ありませんね。正直にお話しいたします。夏は……私の血のつながった子供ではありません」
その瞬間、文と咲を除いた全員に衝撃が走る。
だが、話はそれで終わらなかった。
「氏元様のお子、つまり氏勝様の弟なんです」
さらなる衝撃が走る。
「え、え!? どういうこと? 私とお母さんが血がつながってない? 氏元様の子供?」
事実を受け止めきれず、夏は混乱した。
「ごめんなさい。これもあなたを守るためだったの」
文の言葉は夏の耳には全く入ってこず、そのまま感情を爆発させるように泣き始めてしまった。
さらに咲も泣きながら夏への思いを吐露し始める。
「ごめんね夏。ごめんね……ごめんね……」
そんな三人の姿を見て、辰巳と奈々はおろおろするばかりだったが、ユノウと吉右衛門は落ち着いた様子で成り行きを見守っていた。
「まさか、夏ちゃんが氏元様のご落胤だったなんて」
「驚きの事実だな。だが、これで夏殿が狙われているのも合点がいく」
「ええ、双方にとって、ご落胤の存在はやっかいなものでしょうから。特に、氏吉様にとっては」
「文殿が黙っていたのも無理はないな。ご落胤だとわかれば、こうやって命を狙う者や利用しようとする者が必ず現れる。できうることなら、このまま秘密にしておきたかったであろう」
「ですね。奈々ちゃんですら、夏ちゃんが男であることを知らなかったようですから、このまま隠し通すつもりだったんでしょう」
夏が男であることは文と咲しか知らず、奈々ですら、この時まで女であると信じ込んでいた。
「性別を偽るというのは、確かに人を隠すうえで有効な策ではある。が、長きにわたって偽り続けることは、当人はもちろん、周囲の負担も大きい。それでも、夏殿を守るためには、やるしかなかったのであろうな」
「それだけ、夏ちゃんのことを大切に思っていたんでしょうね。だから、放っておいて大丈夫よ奈々ちゃん」
奈々が感情の錯綜する親子の会話に口を挟もうとしているのを見て、ユノウはそれを制した。
「だって、だって、血がつながっていないなんて……このままだと、親子がバラバラになっちゃいます」
奈々もかなり動揺しており、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「大丈夫だって。夏ちゃんたちはすごく仲の良い親子なんでしょ」
「はい」
奈々は力強くうなずいた。
「聞いて奈々ちゃん。家族とか親子の絆っていうのはね、勝手に築かれるものじゃなくて、時間をかけて築き上げていくものなの。それぞれが親として、子供として、そして姉弟として、愛情を持って接してきたのであれば、血のつながりなんて問題にならない」
吉右衛門もユノウの意見を後押しする。
「ユノウ殿の申すとおりだ。親子関係というものは、血のつながりなどいった本能的なものではなくて、後天的な学習によって育まれるものだからな。でなければ、養子はすべて偽りの親子関係ということになってしまうぞ」
「心配する気持ちはわかるけど、しっかりと築かれた親子の絆は、そう簡単には壊れはしないから。黙って見守っていましょうね」
「けど、けど」
「見守っていましょうねっ!」
「……はい」
若干強引な感じもしたが、とりあえず奈々は落ち着きを取り戻した。




