予想外の報告
食事を済ますと、ユノウを護衛に残して、辰巳たちは大道寺家に戻った。
「奈々様、辰巳様が捕らえた賊の正体がわかりました」
奈々の部屋に入るや、すぐに侍が報告にやって来たのだが、なぜか浮かない表情をしていた。
「どうしたの? また江戸の者だったんじゃないの?」
「それが……江戸ではなく、河原崎様配下の者でした」
「え!? ……そ、それは本当なの?」
奈々は明らかに動揺している。
「はい、間違いございません」
「……」
「奈々様?」
「わかった。下がっていいよ」
「失礼いたします」
侍が部屋を出ると、吉右衛門は当然のように問いかけた。
「何やら、良くない情報がもたらされたようだな」
奈々は心を落ち着けるように、少し間をおいてから口を開いた。
「……はい。実は、先ほど名前の出た河原崎様というのは、氏勝様の守役を務めているお方なんです」
「氏勝様の守役? どういうことだ、この件には小田原も絡んでいるというのか?」
吉右衛門も困惑する。
そして二人の様子を見て、辰巳もただならぬことが起きていることを理解した。
「「「……」」」
状況を飲み込むためか、しばし沈黙が続いた後、吉右衛門が眉間にしわを寄せながら口を開く。
「奈々殿は、河原崎様の人となりを存じておられるのか?」
「はい。誠実で忠義心に溢れるお方で、北条家のことを第一に考えており、私心がないことでも知られています」
「なるほど。となると、これは氏勝様が命じたということなのか?」
吉右衛門の疑問に対し、奈々は首を横に振った。
「氏勝様は大変に性格のお優しい方で、このようなことをお命じになるとはとても思えません。それに病床の身でもありますし。……ただ、河原崎様が動いているとなれば、氏勝様絡みであることは否定できません」
「うーむ……」
三人は考えを巡らせたが、答えを導き出すことはできなかった。
「……ここで悩んでいても仕方がない、当事者から直接話を聞こう」
「待ってください。夏や文さんに心当たりがないってことは、私が前に聞いてわかっているじゃないですか」
「それは氏吉様とであろう。氏勝様とはわからないではないか」
「それは、そうですけど……」
もし何かしら心当たりがあるのであれば、自分が尋ねた時にそのことも言っているはずだと、奈々は思った。
「仮になかったとしてもだ。今より状況が悪化するわけでもないのだから、聞いても損はないだろう」
結局吉右衛門に押し切られるかたちで、話を聞くために店へ戻ることになった。




