こっちでも茶の湯
一方、河越城でも一服しようとしている人物がいた。
「失礼いたします」
お茶ときな粉餅を持って、女中が仁の部屋へやって来た。
「何用か?」
「お茶と菓子をお持ちしました。それとこれを」
女中はお茶ときな粉餅が載った盆を仁の前に置くと、着物の懐から小さく折り畳まれた手紙を取り出した。
「ふむ」
仁は手渡された手紙に目を通すと、お茶を一口飲んだ。
手紙には、忍者たちによる夏襲撃の一部始終が書かれていた。
「フフッ、もう突き止めたか。美影、氏吉様は河越に興味津々のようだぞ」
仁は女中の美影に手紙を渡すと、菓子楊枝できな粉餅を刺して口に入れた。
「……よろしいのですか? ご落胤の所在が明らかになっては、切り札にならないのでは」
「構わんさ。元々、『居場所を教えて欲しくば、俺らを守れ』みたいな陳腐な駆け引きをするつもりはなかったからな。むしろ、これで氏吉様はご落胤の話を無視できなくなったはずだからな、俺にとっては好都合だ」
「好都合?」
「そうさ。氏吉様にとって、ご落胤の存在と同じくらい、その情報を持っている人間は脅威なんだよ。もし北条家中の人間にご落胤の情報が渡れば、新たな勢力として、世継ぎ争いに介入してくる可能性が出てくるからな。しかも、甥と実子なら、どちらが世継ぎ争いで有利かは一目瞭然だ」
「なるほどぉ」
美影は尊敬の眼差しで仁のことを見た。
「あとはじっくり揺さぶりをかけていけばいい。襲撃のおかげで、大道寺の奴らも、俺にばかり気を向けてはいられなくなったはずだからな」
仁はニヤリと笑うと、きな粉餅を口に入れた。
「しかし、大道寺の奴らも、随分と腕の立つ連中を護衛につけたな。一応危ない時は陰から助けるように命じておいたが、その出番はないかもしれないな」
重要な手駒ゆえ、早々に失われることがないよう、仁は信頼できる部下を監視につけさせていた。
ただ、仮に失われた場合でも、それを利用して河越と江戸の間にいざこざを生じさせ、その隙を突いてうまく立ち回ってやろうとも考えていた。
「……それにしても、大道寺対策の一環として、あの店に目をつけていたが、こいつは思った以上の掘り出し物だったかもな」
満足そうにお茶を飲む仁。よもや襲った忍者が氏吉配下のものでないとは、夢にも思っていなかった。




