江戸の反応
仁が手に入れた情報は、既に手紙にしたためられて、江戸城にいる氏吉のもとへ届けられていた。
「くそっ!」
氏吉は脇息に片肘をつきながら、不機嫌そうに扇子をパチパチとさせていた。
「殿、お呼びでございますか」
部屋に入ってきたのは、見るからに人が良さそうなタヌキ顔をした、裃姿の老人だ。
「これを読んでみろ」
氏吉は老人に向かって乱暴に手紙を投げた。
「拝見します」
老人の名は永島勝之助。氏吉が幼い頃から仕える老臣で、忍びの組頭でもあり、仁と酒を飲んだ謎の老人の正体でもあった。
「……こ、これは!?」
一読するや、勝之助は驚いた顔で氏吉のことを見た。
手紙の送り主は仁で、氏元のご落胤が河越城下にいることや、もし自分たちを切り捨てるようなことがあれば、諸々の訴えを含めて、ご落胤とともに小田原へ参上するとのことが書かれていた。
「御しやすい相手だと思っていたが、よもやこんなものを寄越してこようとはな。で、爺よ、ご落胤の件、どう見る?」
「……正直に申して、これだけでは判断がつきかねます。ただ、与太話として片付けるのは、いささか危険かと」
「チッ! まったく、忌々しい真似を。爺、すぐに真偽を調べ、しかるべき処置をとれ」
「承知いたしました」
勝之助は部屋を出ると、仁の顔を思い浮かべた。
「……体のいい道具にすぎないと思っていたが、腐っても忍びだったようだな」
予想だにしない反撃に悔しさを覚えつつも、忍びとしての矜持を失っていなかったことに対し、同じ忍びの者として嬉しくも思う、そんな複雑な気持ちを抱いていた。




