スキルの検証
誰もいない静かな森の中、ホルンは思考を巡らせる。
「俺が戦えてるのは虹竜のツノで得たスキル【レベルアップ】のおかげだ」
今までのホルンはへんぴな村暮らしなのでそれなりの体力や、森で狩りの知識もあるし、自警団に入っていたので多少は戦えた。
しかし、それでも装備の整った騎士団相手には敵うはずもない。
彼らと敵対した時点で死の運命は回避できないはずだった。
それをどうにかしてくれたのがイダウェドから託されたツノだ。
「そう、虹竜のツノもすごいが、それを受け取れるようになったスキル【ツノ】という謎の存在……これをもっと知らなきゃいけない気がする」
この【ツノ】の力を考えてみる。
まずは普通の人間であったホルンに、自動的にツノが生えてきた。
実はツノの種族とのハーフだった……とかはないのと、スキルを得たあとに生えてきたので確定だろう。
その能力は、イダウェドとのやり取りから〝ツノを受け取れる〟という感じだろうか。
「でも、イダウェドの実際のツノは竜の骨に残っていたから、ツノの模倣のようなものか……?」
ホルンは自分のツノを恐る恐る触ってみると、ちゃんと実体があった。
元のツノはどうなったのだろうと考えると、瞬時に形が元に戻った。
「うおっ!? 変化……するのか?」
虹竜のツノのことを思考すると、再び虹色のツノに変化した。
「となると、ツノを集めていけば色んなスキルが使えるようになるということか……? 問題は集める手段か……」
イダウェドからのように、ツノを使ってくれと譲渡されるような雰囲気になればコピーできるのだろうか?
そこの部分を少し試してみたくなった。
「お、鹿の痕跡があるな」
丁度、地面にキラリと光るものがあった。
それは金属ではなく、輝くような光沢のコガネムシだ。
コガネムシたちは鹿の糞に集まっていて、目をこらすとその先に鹿の足跡が続いている。
ホルンはそれを追いかけ、ツノを持つ鹿を発見した。
地面に生えている野芝を食んでいて、こちらに気付いていないようだ。
「ツノが二股に分かれているな……二歳の雄鹿か」
一般的に勘違いされていることもあるが、鹿というのは雄しか角が生えない。
ツノの形も成長していく内に変化していくので、それで年齢がわかるのだ。
「しまったな……弓矢がないな」
一見すると鹿というのはのんびりした被捕食者のようだが、実際は素早く、そして荒々しい動物だ。
普通の人間が油断すると殺されることもある。
「仕方がない……ミスリルの剣を投擲するか!」
ホルンは躊躇なくミスリルの剣を投擲した。
高級品であるミスリルを投げつけるなど、鍛冶屋が見たら倒れてしまうだろう。
村育ちというのは恐ろしい。
「!?」
「外したか……!」
素人が投擲したところで、狙った通りの場所へはいかない。
逃げてしまった鹿を尻目に、ホルンは溜め息を吐きながらミスリルの剣を回収した。
「やっぱり練習あるのみか……頼んだぞ、スキル【レベルアップ】」
ホルンはひたすらにミスリルの剣を木に投げつけ続けた。
最初は狙い通りにいかなかったが、徐々に精度を上げていく。
それからも投げ続けることによって、実戦に耐えうるレベルになった。
「よし、あとは再び鹿を探して……」
鹿の痕跡を探し、狩人の如く追跡する。
運良く先ほどの二歳雄鹿を見つけ、狙いを定め――
「必殺! 投擲ミスリルの剣!」
気持ちは大事なので言葉に出してみた。
かけ声を入れると力が強まったりするというのは本当らしく、先ほどよりも調子が良い気がした。
ただ、恥ずかしい気もするので人前でやるには勇気がいるかもしれない。
「よし、今度は当たった!」
急所である雄鹿の心臓――前足付け根の斜め上辺りに命中し、見事に得物は動かなくなった。
急所を外すと、鹿は負傷しながらもかなりの距離を移動するので運が良かった。
直後、ホルンはツノに熱さを感じ、意識をすると鹿のツノへと変化していた。
「直接倒してもツノを入手できるな。強くなる方法が何となく見えてきたぞ! ……でも、その前に……」
ホルンの腹の虫が鳴った。
色々とハードな一日だったこともあり、何も食べていない身体は正直なようだ。
雄鹿を近くの川へ運び、血と内臓を処理して、肉を冷やしながら野営の準備をすることにした。