初めてのレベルアップ
ツノの種族を模した兜を装備した、カール騎士団の集団が追いついてきた。
「さぁて、この場所なら殺しても平気だろう。わりぃな村人~」
悪いと言いつつ、騎士団たちの表情はニヤニヤとゲスい表情だ。
明らかに弱者を殺すことを愉しもうとしている人間。
「ジャンケンで勝ったから、オレが殺らせてもらうぞ~」
「ちっ、せっかくツノの種族を殺せるチャンスだったのに!」
「カール様ならまたこういう場を用意してくれるだろ~。鬼の集落にも偵察を送り込んでいるって話だしな」
ホルンの目の前に、騎士団の男がやってきた。
トロンとした目で剣を片手にぶら下げ、まるで今から極上の料理を食べるかのような雰囲気だ。
「なるべく長く遊びてぇなぁ……。ククク……、どうした? 怯えて声も出ねぇか? おめぇ、最初っから子羊みてぇな感じだったからなぁ」
ホルンは無言のまま、荷物から剣を取り出した。
「おっ、村人のくせに良い剣を持ってるじゃねーか。もしかして、それミスリル製かぁ? おめぇを殺したら頂いてやるよ、あひゃひゃっ!」
騎士団の男はゆっくりとした剣の一撃を上段から仕掛けてきた。
長く遊ぶためにわざと受け止められるくらいにしたのだろう。
ホルンはミスリルの剣でそれを受け止め――
「ッ!?」
ようとしたのだが、大きく弾かれてしまう。
「おっと、すまんすまん。この程度でも受け止められねぇか」
ゲラゲラと笑い、いたぶるために弱い斬撃を執拗に仕掛けてくる。
ホルンはひたすらにそれを弾いて、身体のバランスを崩しつつも再び構えるのを繰り返す。
「おいおい、あんまりいじめても可哀想だろう~」
「さっさとやっちまえよ。男じゃなくて、美しいと評判の鬼の姫を見に行きてぇし」
他の騎士団員からブーイングが飛んできたため、騎士団の男はやれやれと剣を構え直した。
「わぁったよ、この一撃で終わらせ――」
殺す気でいた鋭い斬撃――ホルンが難なく受け止めていた。
「……は?」
「今の経験で【レベルアップ】した」
それがホルンの一言目だった。
二言目は――
「もうお前を倒せる」
「……な、なめやがって!! まぐれのクセに!!」
激昂した騎士団の男は大振りで剣を振るうが、ホルンはスッと回避して、返す剣で敵の鎧の隙間へ一刺し。
「ゴファッ!?」
騎士団の男は急所を刺され、血を吐いて動かなくなった。
「なるほど、虹竜のツノで経験を力に変えることができるのか……」
「ひっ!?」
「な、なんだこの村人……さっきまでと雰囲気が全然ちげぇぞ!?」
「へ、へへ……落ち着けよ。ジャンケンで次の番はオレだったはずだ。コイツぁただの素人だ。まぐれ……ビギナーズラックってやつよ。最初から油断せずにやれば……」
その言葉通り、次の相手は最初から全力で剣を振るってきた。
しかし、カール騎士団の剣術はすでに見切っている。
「う、ウソだろ……」
ホルンは相手の一撃をいなすと同時に弾き、隙だらけのところに致命的な一撃を入れた。
戦闘開始から一秒ほどだ、呆気なさ過ぎる。
場の空気に呑まれ、騎士団たちはポカンとしてしまっていた。
「この力は超学習ということか? 同じような相手からなら、先ほどの経験で楽に戦えるな」
ホルンは無表情のまま、残りの騎士団がいる方向へスタスタと歩いて行く。
敵がハッと気が付いた時にはもう遅い。
斬撃、血飛沫、悲鳴、命乞い、静寂。
ツノの種族に化けた騎士団は、瞬く間に壊滅したのであった。
「虹竜イダウェドのツノのスキル――【レベルアップ】か。この力があれば、もう理不尽に迫害されることはない。恩に着る、イダウェド」
巨大な竜の骨に一礼をするホルン。
と、そこへ森の奥から女性の悲鳴が聞こえてきた。
「そういえば、近くにある鬼の集落もカールたちが襲っているという話だったな。……イダウェドの願い、『ツノの種族の汚名をそそぐ』というのを叶えてやらなきゃな」
ホルンは悲鳴が聞こえてきた方角へと向かうのであった。