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どう行動するかは決まっている

 村長の娘の一人であるトラハがさらわれたということもあって、すぐに村の重要人物たちが集まって相談が行われた。

 なぜか、その場にホルンもいた。


「娘――トラハがさらわれたというのは本当なのか……?」

「はい、村長……。しっかりと商人に抱きかかえられて馬車に乗せられていました。すぐに追いかけようとしたのですが、馬車に追いつけなくて……」

「そうか……」


 村長が口を閉ざすと、沈黙が周囲を支配した。

 一番心を痛めている村長が何も言わないのだから、他人が何か言えるはずもない。

 その沈黙を打ち破ったのは、もう一人の娘であるカナホだった。


「今すぐに助けに行きましょう!」

「いや……村のことを考えたら、下手に動くことはできない……」

「そんな!?」

「ツノの種族は、裏では人権がないと言われるほどの情勢だ……。たとえ人攫いを行ったとしても、人間が罪に問われることはないだろう……」


 公の街中ならまだしも、森の奥にある鬼の村の一人がさらわれた程度では法が働くかは怪しい。

 何かの拍子に裁判となったとしても、適当な理由を付けてのらりくらりと無罪になるだろう。

 逆に鬼の村に対して処罰が行われる可能性が高い。

 それくらいツノの種族に対する風当たりは冷たいのだ。


「それに……活かして連れ去ったということは、何か生きていることに利用価値があるとされたのだろう……。生きてさえいれば……」

「うぅ……トラハ……トラハに何かあったら私……」


 村長である父の非常な決断に、カナホは涙を流してしまう。

 自らの身内一人のために、村全体を危険に晒すようなことはできないということだろう。

 悔しいが、村人全員もそれがわかっているので口を出せない。

 ただそれを見ていたホルンは、置いてあった自分の荷物を背負い、ミスリルの剣を腰に装着した。


「俺は村から出て行くことにする」

「ホルンさん!? あなたは村の恩人だ、ずっとここにいてくれても……」

「俺だけがカール騎士団と敵対してしまったし、ここに飛び火したら嫌だしな」

「ホルンさんまでいなくなったら、私は……私は……」


 カナホが悲しげな目を向けてくるが、ホルンは首を横に振った。


「トラハのことは任せろ」

「ホルンさん!? まさか――」

「村を出てどう行動するかは決まっている。トラハを助ける」


 鬼たちはざわついた。

 まだ会っても間もない子どものために、危険の中に飛び込もうというのだ。

 同時に、ホルンにそんな行動をさせてしまった自分たちを恥じた。


「危険です、ホルンさん。我が娘のことは気にせず……」

「俺が一人で勝手にやりたいことをやるだけだ。それはトラハの親であるお前にも関係ないことだ」


 ホルンは冷たく言い放った。

 しかし、それは鬼に迷惑をかけないように言っているのだとみんなが理解していた。


「ホルンさん! この私も――シュテン・オーエの名前を捨てて付いて行きます!!」


 自らの名を捨てることによって、カナホは村に迷惑をかけないようにしてホルンについていこうというのだ。

 ホルンはそれを静止した。


「家族は大切にした方がいい。もう二度と家族に会えない俺からのアドバイスだ」

「でも……!!」

「よしなさい、カナホ……! お前ではホルンさんの足手まといになってしまう!」


 ホルンは、自分に代わって言ってくれた村長に対して苦笑いしてしまう。

 そもそも、追跡のときに鹿のツノで全力疾走するつもりなので物理的に付いて行くことができないのだ。


「私たちは……無力なんですね……」

「今は俺だけが状況に適していたというだけだ。きっといつか、ツノの種族たちが手を取り合えば、こんな情勢も変わるさ」


 俯くカナホの頭をポンと軽く叩く。

 こうしていると、ただの小さな女の子に見えるから不思議だ。


「ホルンさん……ご武運を……!」

「相手はゴブリンじゃなくて、人間だけどな! ははは!」

「ふふ」


 二人だけにしかわからない冗談を言ってから、ホルンは鬼の村を旅立った。

 走ることに特化した馬車に追いつくのは難しいだろうが、その道筋を辿って追跡は可能だろう。


(何か嫌な予感がする。間に合ってくれ……)

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