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鬼の村の家作り

「いや~……。ホルンさんにツノを渡すように意識したら、こんなにパワーが出るなんて……」

「すげぇ! 大きな木材も軽々いけるぜ! もういっちょ載せてくれ!」

「あいよ! これで木材置き場と村まで軽々と往復できるな!」


 ホルンが村に戻って試したところ、ツノの種族強化は村人全員に発揮できることが判明した。


「まだまだ若いもんには負けんぞい!」


 今ではご老人でさえマッシブに働いている。

 それをなぜかジト目で見つめてくるカナホがいた。


「ど、どうしたんだ……カナホ……」

「この浮気者……私だけじゃなく……」

「ちょ、ちょっと待った!? これはそういうのじゃなくて、ただ単にみんなにスキルの力を使ってみただけというか!? なんで手をワキワキしているんですかカナホさん!?」


 人生の終着点が見えそうなタイミングで、カナホの妹であるトラハがやってきて指摘した。


「カナホお姉ちゃん、嫉妬深~い」

「べ、別にそういうのじゃありません~!」


 よく言ってくれた、トラハちゃん! とホルンは心の中でガッツポーズだ。

 そこさえ自覚してくれれば、ホルンが殺される確率も大幅ダウンだろう。


「じゃあ、ホルンお兄ちゃんが別の恋人をつれてきたらどうするの~?」

「そ、それは殺………………お友達になるかな!」


 殺すと言いかけたのは聞かなかったことにした。

 人と、鬼という種族はかなり意識の違いがあるようだ。

 その可愛い容姿に騙されてはいけない。


「あ、そういえば用事を忘れていた!」

「トラハちゃん、何か頼まれごとでも?」

「うん、行商人さんが来てるから、ホルンお兄ちゃんにも教えておけって言われてたの! 何か欲しいものある?」

「行商人か~……」


 このツノの種族が嫌われている世界でも、行商人は金になれば商売にやってくる。

 他の町や村へ歓迎されない鬼としては、ありがたい存在だろう。


「特に欲しい物はないかな。でも、教えてくれてありがとう。気を付けて帰るんだよ」

「うん!」


 ホルンは元々が質素な生活をしていたため、この鬼の村でも不便を感じていない。

 わざわざ伝えに来てくれたトラハにお礼を言いながら、その去って行く姿に手を振った。


「さて、俺も家作りを手伝うかな」

「えっ、もしかしてホルンさん、建築の経験がお有りで?」


 カナホが期待に目をキラキラと輝かせている。

 残念ながら、その期待には答えることはできない。


「いや……不甲斐ないことにそっち方面も全然で……。何か手伝えることがあったら手伝って慣れていこうかなと」

「不慣れなことでも鬼たちのために挑戦しようという精神、ステキです!」


 いつも通り何でも褒めてきて怖いくらいだ。

 それでもカナホは本気でそう思っているのだろう。

 基本的に純粋で良い子なのだ。

 だからこそ、幻滅させてしまったときに死の予感しかしないが。


「じゃあ、ちょっと行ってくる!」

「行ってらっしゃい、あなた!」

「あなたって……」


 ツッコミを入れるとまた意識の違いの平行線になりそうなので、今はスルーして建築現場へと向かうことにした。

 鬼の家は、村にあったものと違って東の国風のアレンジが施されており、木材と藁葺き屋根のシンプルな作りだ。

 最初はジャマをしないように見学をして、全体の構造や、作業の流れなどを把握する。

 しばらくすると意外と地道な作業の組み合わせだとわかり、そのタイミングで大工の鬼が声をかけてきた。


「おや、ホルンさん。もしかして家作りに興味がおありですかい?」

「ああ、もしよかったら手伝いたいなと思っている」

「いやいやいや、村を救ってくれたお客人にこれ以上手間を取らせるわけにゃあ……」

「頼むのは俺の方だ。こういう経験も積んでみたいしな」

「そ、それなら丁度人手が足りないので助かりますがね……うーん、何を頼もうか……」


 まずは誰でもできる雑用から頼もうとしているのだろうと察した。

 ホルン相手にそれは言いにくいだろうということも。


「よし、雑用なら任せてくれ!」

「も、申し訳ねぇですが助かります……!」


 ホルンは加工前、加工後の木材を指示通りに運んでいった。

 鬼のツノの力を使えば、他の者の十倍程度は運べる。


「す、すげぇ……オレたちと同じようなツノをしてるのにパワーが違ぇぜ……」

「そりゃ、ホルンさんは特別だからな!」


 昼休みの休憩になると、ホルンは鹿のツノになって素早くお茶を汲み、おにぎりを配って回った。


「わ、わざわざすみません!」

「いや、こちらこそ勉強させてもらっている! いっぱい食べて午後もまた一緒に頑張ろう!」

「おいおい……男のオレでも惚れちゃいそうな気概だぜ……」


 鬼の男は冗談で言ったが、影から観察していたカナホの殺気を感じてビクッとなっていた。

 そうしている内に、ホルンは建築の手伝いを申し出た。

 大工としては少しだけ不安だったが、ホルンはすぐに的確に仕事をこなし始めたのだ。

 スムーズな(かんな)がけ、丁度良い力加減の釘打ち、どれもがある程度の見習いレベルにはなっている。


「ほう……もしかして、ホルンさんは見て技術を盗んだんですかい?」

「虹竜のツノのおかげかもしれないな」


 ホルンはスキル【レベルアップ】の力もあり、徐々に大工見習いから頭領のような技術を使えるようになっていく。

 そのかいもあって、村にはすぐ新しい家が建ってしまったほどだ。


「ひゅーっ! すげぇぜ! さすがホルンさんだ!」

「いや、俺だけの力じゃない。鬼のみんなもパワーアップして、信じられないくらいの働きっぷりだったしな!」


 元の人間の村では得られなかった、お互いを高め合うような居心地の良さを感じてしまう。

 ホルンはこの鬼の村に来てよかったと思った。

 みんなで茶を飲んで一息していると、そこへ大慌てで叫ぶ鬼がやってきた。


「た、大変だ! トラハちゃんが人間の行商に連れ去られた!!」

「なんだって!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「行ってらっしゃい、あなた!」 「あなたって……」 …鬼の文化って日本っぽいが、 さすがに火打ち石の文化はなかったか…。
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