カブトムシのツノ、カタツムリのツノ
「さて、ツノのある生き物を探すか……」
カナホとは反対側を探すホルン。
スキルで鹿のツノにして、森での活動をしやすくしている。
しばらく歩き回ってみたのだが――
「んー……森ならツノがいっぱい見つかるとイメージしていたけど、そうでもないな……」
鹿の気配は感じるのだが、それはすでに持っている。
他に目立つ生き物だと猪突猛進でお馴染みの猪――
「尖った部分のイメージがあるけど、あれはツノじゃなくて牙だしなぁ……」
惜しいのか惜しくないのか微妙なところだが、スキルとしては反応してくれない。
曖昧なことでも引き受けてくれる、貴族御用達のVIPサービスではないらしい。
「他は……兎……鳥……」
目に付く生き物にツノは生えていない。
森ならばツノが生えている生き物くらいいるだろうと思ったが、どうやらその大半のイメージは鹿だったようだ。
「うーん……無駄足だったか?」
走り回っても、見回しても一向にツノは見つからない。
ホルンは切り株に座って、一回考えをリフレッシュさせる。
「はぁ~……。どうするかな。この分だとカナホも見つけていないだろうし」
上半身の伸びをして身体をほぐしていると、真横にある木から甘い匂いを感じた。
察知できたのは強化された身体能力のおかげだろうか。
そちらの方向に視線を向けると樹液が滴っていて、そこにツノを持つ生き物がいた。
「ツノだ! ……けど、これは使えるのか?」
樹液には虫が食事をしにやってきていたが、その中でもツノを持つ目立つ昆虫――カブトムシがいた。
超巨大! ……などではなく、普通に手の平に載るサイズのカブトムシだ。
ホルンも少年時代は虫取りをして遊んだ経験があるので、結構なじみ深くはある。
つぶらな瞳でどことなく愛嬌がある顔だ。
「小さいなぁ……」
ホルンはカブトムシをつまみ上げてみた。
食事の邪魔になってしまうが、あとで元の場所に戻すつもりだ。
「でも、一応……まぁどう考えても使えないだろうけど、一応……な……」
ホルンはカブトムシを手の平の上に載せて、お願いをしてみた。
「頼む、カブトムシ! お前のツノを使わせてもらえないか?」
大真面目に頭を下げたのが通じたのか、ホルンのツノに反応があった。
黒く太い一本のツノになった。
「感謝する、カブトムシ……! 食事の邪魔をして悪かった。さぁ、お帰り」
そっと元の樹液の場所へ戻すと、ホルンは自分のツノを観察してみた。
「虫サイズだとわからないけど、人間サイズだと結構迫力があるな……。少し離れた場所にある、あの倒木で試してみるか」
倒木は丁度ツノが差し込めるような場所があり、カブトムシのツノを試すのにもってこいだ。
正直、あまり期待していなかったが――
「ふんっ!」
意外と簡単に持ち上がってしまった。
「おぉ……鬼とまではいかないけど、パワーがあるな」
予想外の収穫に嬉しくなってしまったホルンは色々と試してみた。
それを評価値として示すと、こんな感じだ。
【カブトムシのツノ 攻撃力:B 防御力:B 素早さ:C 器用さ:C スキル:なし】
「鬼のツノより防御力がある感じだから、そこまで攻撃力が必要ないときに使えるな」
ちなみに鬼の評価値は――
【鬼のツノ 攻撃力:A 防御力:C 素早さ:B 器用さ:C スキル:朱点圧殺撃】
という感じだ。
「本当は魔力に関する評価点も付けたいが、いかんせんそっち方面のツノがまだないからなぁ……」
まだまだツノを集めたいと思ったそのとき、カナホが帰ってきた。
「ホルンさん、見つけましたよ! ツノを持つ生き物!」
「おぉ、この森の中にはもういないかと思ってたのに! よくやった!」
「えへへ、褒めてもらえて嬉しいです」
「それで、どんな生き物なんだ?」
「じゃじゃーん! これです!」
カナホが懐紙にチョコンと載せてきたのは、小さなカタツムリだった。
「……」
ホルンは反応ができなかった。
なぜ、カナホがカタツムリを持ってきたのか理解できなかったからだ。
(もしかして、場を和ませようと持ってきてくれたのか? それなら笑ってあげた方が……いいのだろうか?)
しばらく考えたあと、とりあえず笑ってみた。
「ははは!」
「そうです! 冗談のような話ですが、念のために持ってきたんですよ!」
「……え?」
「カタツムリのツノって歌われていたり、東の国の狂言という演劇でもツノの逸話が出てきたりするんですよ!」
その場のノリで笑ってしまったが、どうやら大真面目だったようだ。
「ごめん、海よりも深く反省する……」
「ど、どうしたんですか、ホルンさん!?」
「よし、それならカタツムリのツノを頂くとしよう! これもきっと、意外とカブトムシのように使えるはずだ!」
そういうとホルンは、前回と同じように紳士的にお願いをしてツノを入手することに成功した。
生き物として大きく異なるが、お互いにツノで通じ合っているのかもしれない。
「……あの~、ホルンさん。普通に倒してツノを取ったりはしないんですか?」
「食糧にするわけでもないし、無駄な殺生は避けたいかな」
「なんとお優しい……まるで東の国の神様のような……」
持ち上げっぷりが怖い。
神様と言われたら、神様のような振る舞いをしなければならなくなってしまう。
もしかしたら、逆にハードルを上げて追いつめようとしてきているのでは? とまで考えてしまうほどだ。
このことについてカナホと話すと非常に長くなりそうなので放置して、ホルンはさっそくカタツムリのツノを使ってみることにした。
ワクワクと期待大だ。
「……あ~れ~ぇ~?」
急に動きが遅くなった。
ノロノロと、まるでカタツムリのようなスピードでしか歩けない。
「こ~れ~は~……」
遅すぎる動きで苦労しながら試してみたが、評価値はこんな感じだった。
【カタツムリのツノ 攻撃力:F 防御力:F 素早さ:F 器用さ:F スキル:なし】
「な~ん~て~こった~……」
「ぷ……ぷくく……」
そのゆっくりした姿に、カナホが可愛く笑ってくれたのが唯一の救いだったのかもしれない。
カタツムリのツノは二度と使うまいと思った。




