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鬼の宴会

「た、ただいま……!」

「おぉ……この量は……!?」


 村に戻ってきたホルンは、村人たちに驚かれてしまった。

 それもそのはずだ。

 とんでもない量の鹿を狩ってきたためである。


「ふふ、さすが未来の旦那様ですね」


 どうしてこんなことになったかというと、横で涼しげな顔をしているカナホのせいである。

 ホルンとしてはある程度の量でいいと思ったのだが、カナホは捕れるだけ捕りましょうと譲らなかったのだ。


「これだけの狩りの能力があるのだ……これは今すぐにでもカナホと結婚して、村長を継いでも……!」

「賛成! 賛成!」

「これで村も安泰だ!」


 なんだこの流れは……と思うと同時に、カナホにしてやられた感があった。

 狩りの能力を見せてしまうことによって、村長や鬼たちという外堀も埋められてしまったのだ。

 油断をすると流されてしまいそうだったので、きちんと言っておくことにした。


「俺の価値観では、そういうので決めるのはどうかと思う。ちょっと時間が経てば、カナホは俺のことを嫌いになる可能性もすごくあるし」

「大丈夫です! ホルンさんのダメなところがあっても、そこもまた好きですから! むしろ何もしないダメな人になってくれてもいいですよ! 私が養いますので!」

「……えぇ」


 ちょっとヤンデレのようなホラーみを感じてしまい、素で引いてしまった。

 正直言うと怖いし、絶対にこの子はちゃんと冷静な判断させて付き合う相手を選んだ方がいいとすら思う。

 ……と正直に言うと両手両脚をへし折られて監禁されそうな気配もするので、テキトーな言葉で逃げることにした。


「あ~……鹿を運んだときの血で汚れてしまったなぁ……鹿料理は楽しみだけど、ちょっと汚れを落としてきたいかな~……」

「あ、それじゃあお風呂があるのでそちらへ」

「風呂……身体を拭くだけじゃなくて、湯を沸かしてあるのか。豪華だな……」

「温泉と木の柵だけの質素な作りですよ」


 ホルンの基準からしたら質素だとは思えない。

 こういうちゃんとした風呂というのは村にはなかったので、かなりワクワクした。

 それと同時に嫌な予感もしていた。





「ふ~……お湯に入るのって気持ちいい~……」


 ホルンは身体の汚れを落としてから、温泉の中に浸かっていた。

 嫌な予感がしていたというのは、もしかしたらカナホが一緒に入ってきて『裸を見られたのだから結婚するしかないですよ!』とか言い出すかと思ったのだ。

 しかし、きちんと男湯と女湯に分かれていて、周囲も高さ三メートルもある柵でガードされている。

 これなら落ち着いて一人で入れる。


「昨日今日で色々とあったな~……」


 リラックスしてしまうと、つい色々と思い出してしまう。

 ただの村人だったのに、遅咲きのスキルで期待されて少し有頂天になっていて、そこから【ツノ】を得てしまい地獄へ叩き落とされた。

 本来ならその場で人生が終わっていただろうに、虹竜イダウェドによって助けられたのだ。

 そしてツノの力を使いこなしていき、カナホとも出会い、カール騎士団を倒した。


「悪党を退治してめでたしめでたし……だったらよかったけど、今度はイダウェドの娘か……。それにカール騎士団を倒したことによって、人間と敵対しちゃったというのもあるからな~……この先どうするか~……」


 悩みが浮かび上がってくるも、それらはお湯に溶けてしまいそうだ。

 今だけはこの極上の一時を楽しもう――と思っていたのだが、念のために変化させておいた鹿のツノの聴覚がピクッと反応した。

 男湯の出入り口がガラガラと開いたのだ。

 まだ焦るには早い。

 なぜかカナホが突撃してくるかと思ってしまったが早計だ。

 普通に鬼の男衆が入ってくる可能性もあるだろう。


「まったく、俺は何を馬鹿な想像を……」

「ホルン様~! お背中をお流ししますよ~!」

「ブフォオッ!?」


 最近シリアス続きだったホルンの表情は崩れ、大きく噴き出してしまった。

 まだ湯煙に隠れてシルエットしか見えないが、向こう側にいるのは確かにカナホだ。


(あかんあかんあかんあかん!! これはあかん!! 絶対にあかん!!)


 語彙すらなくなって、ただのうろたえる村人に戻ってしまった。

 危険を察知した頭脳が極限まで加速して、逃げるルートを導き出した。


「ホルン様~……? あれ、湯船にいない? 外に服はあったのに……」


 すんでのところで、ホルンは鹿のツノの力で高さ三メートルもある柵を跳び越えていた。

 実は鹿というのは跳躍力が非常に高く、簡単な柵程度では乗り越えてしまう事例がある。

 ホルンはそれを思い出して、実行したのだ……全裸で。




 ***




 何とか服を回収して、宴会の会場へ帰還したホルン。

 そこで村長とはち合わせしたが、なぜか罪悪感から目を逸らしてしまう。


「お、ホルンさん。お帰りなさい」

「や、やぁ……村長さん」

「先ほど、全裸で歩く男がいたらしいので注意してくださいね。もしかしたらカール騎士団の生き残りが……」

「そ、そいつなら俺が倒しておいたから平気だ!」

「さすがホルンさんだ!」


(村に危険が残っているとも思わせたくないし、かといって俺が全裸で歩き回っていたというのも知られたくないからな……)


 くだらなさすぎる自分の嘘に落胆しながらも、宴会の方に目を向けた。

 野外だが松明でライトアップされており、そこには鍋料理と酒などが並んでいた。


「おぉ、何やらうまそうな匂いが。見たことない料理だ……」

「これは紅葉鍋と言うんですよ」

「へぇ~……紅葉鍋……って、カナホ!?」


 いつの間にか、村長を横にどけてジト目のカナホが居座っていた。


「つかぬ事をお伺いしますがホルンさん、温泉はいかがでしたか?」

「え、えーっと……すぐにあがっちゃった……あはは……」

「そうですか~……もっとゆっくりしててもよかったのに」


 ゆっくりしていたら大変なことになっていただろうとツッコミを入れたい。

 それをごまかすために話題を逸らすことにした。


「そ、それで紅葉鍋ってなんだ? 植物の紅葉(メープル)が入っているのか?」

「いえ、鹿肉を使った鍋のことです。名前の由来は東の国の古いカードゲームかららしいですよ」

「へぇ~、面白いなぁ。スープは黒いのか。入っている野菜もあまり見かけないものだな」

「味付けは大豆を発酵させて作った醤油、お米を使ったみりん、お野菜の長ネギなどは近くで栽培しています。さぁ、百聞は一見にしかず! 召し上がれ!」


 カナホがお椀によそってくれたので、ホルンはそれにお礼を言いながら受け取った。


「いただきます! ……ん! これは!」


 自分で作った慣れない包み焼きより百倍美味しかった。

 香草で誤魔化さずとも臭みがなく、肉も柔らかさとジューシーさを兼ね備えていて、それでいて醤油とみりんの甘辛さがあって、最後に卵の優しさがすべてを包み込んでくれている。

 隠し味も入っているようで、さらに野菜の旨みすら溶け出して調和している恐ろしさだ。

 まさにいくつもの要素が複雑に絡み合い――


「和を以て貴しとなす……うまい!! うますぎる!!」

「お喜び頂けたようで何よりです」

「こんなに美味い物、初めて食べた!! これはお世辞ではなく、本当だ!」

「あら、嬉しい。毎日でも作ってあげたくなります」

「えっ、本当!? 毎日でもいいの!?」


 満面の笑顔でそう言ってから気が付いた。

 これプロポーズ的なやつだと。

 ホルンは食欲を理性で抑え付け、スッと真顔になる。


「いや、それはいいかな……」

「おしい、あと一歩だったのに……!」

「か、カナホ……押しが強くないかな?」

「そんなことないですよ~!」


 何か物理的にも身体を押しつけてきている気がする。

 さすがに何か変だと思ったら、カナホの手に透明な液体が入った一升瓶を発見してしまった。


「……カナホ、それは何かな?」

「何ってぇ~……東の国のお酒ですよ~!」

「えーっと……カナホはまだ飲まない方がいい年齢なのでは?」

「鬼はお酒に強いですからね! どんなに飲んでも一晩寝ればアルコールが分解されてます! 酔いはしますが大丈夫です!」

「そ、そうなんだ~……」


 これ以上酔っ払うとまずいことになりそうな気がする。

 絶対に逃げるべきだ。


「あーっと!! 思い出したぞぉ! 村長さんとか鬼のみんなに氷竜アイスソードのことを聞いてこなきゃ! 何か知っているかもしれないし! じゃ! カナホそういうことで!!」

「あぁ~! 未来の旦那様~!!」


 鬼の力で引っ張られたが、ホルンも鬼の力を発揮してなんとか脱出するのであった。

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