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ようやく授かったスキルで村を追放されました

「ホルン、忌み嫌われるツノを得たお前を……村から追放する! ツノ付きに人権はない!」

「そ、そんな……」


 二十六歳になったばかりの青年、ホルン・マターは突然の出来事に困惑していた。

 頭にツノが生え、生まれ育った村で一番大きな村長の家に呼び出され、追放を言い渡されてしまえばこのリアクションも当然だろう。

 世界のすべてから否定されたようでガクガクと震えてしまう。


「いきなり殺さなかっただけでもありがたいと思えよ、ホルン」


 村長だけでなく、村の男たちや、女子(おんなこ)どもまで口を揃えて同じようなことを言ってくる。


「そうだ、そうだ。二十六歳でスキルを得るという遅咲きだから期待されていたのに、それがよりにもよって【ツノ】を生やすスキルだなんて……」

「聞いたこともないし、おぞましいわ……」

「ツノの種族は魔王だった裏切り者――世界の敵だ……」


 この世界でツノを持つ者は、ツノの種族と呼ばれ忌み嫌われている。

 それこそ奴隷以下の身分として見られているくらいだ。

 ツノの種族が殴られていても、憲兵は見て見ぬフリである。


「い、今まで村で一緒に暮らしてきた仲間じゃないか!? スミス! ヨハンナ! ケイン! みんな……!」


 ホルンが泣きそうな声で訴えるも、ペッと唾を吐かれてしまう。


「はぁ? ツノの種族が気安く話しかけるなよ……」

「ホルンから仲間とか言われるの気持ち悪い……きっと私のことをいやらしい目で見てるわ……」

「おい、ホルン! まさか、オレの嫁に手を出そうってのか!?」


 ホルンは理不尽に殴られ、尻餅を付いてしまう。

 世界が変わった。

 悪い方に――もう二度と人間としての暮らしができないだろうという風に。


「そういやぁ、最近襲撃してきたツノの種族の奴ら……もしかしてホルンの仲間なんじゃないか?」

「し、知らない……。そもそも、スキル【ツノ】を得てツノが生えてきたのは今日のことで……」

「知るか! 汚らしいツノの種族同士、引きつけ合っているのかもしれん! そうだ、きっとスキルの予兆を感じたとか!」

「そ、そんなムチャクチャな……」


 村人たちに何を言っても無駄だと理解してしまった。


「良いことを思いついた。ツノの種族を追い払うためにやってきてくれている騎士様たちに……ホルンも成敗してもらおう!」

「えっ!?」

「おい、誰か呼んでこい! ホルンは抑え付けておけ!」

「や、やめてくれ……!」


 村の青年たちがニヤニヤしながら、ホルンに全体重をかけて地面に押しつけてくる。

 苦しい、下手をすればこの段階で死んでしまいそうだ。


「た、助けて……」

「ツノの種族が『助けてぇ~ん』と言っても、助ける奴がいるはずねぇだろうがよぉ! 助けた途端に裏切ってきて騙し討ちをするんだろぉ!? 裏切り者の種族なんだからなぁ!」


 のし掛かられているうえに、追加で複数人が殴ったり蹴りを入れたりしてきた。

 普通は犯罪者でも、もう少しマシな扱いを受けているだろう。

 ホルンが理不尽な痛みに耐えていると、騎士団がやってきた。

 全身を高そうな鎧で固めており、全員が貴族なのだろう。

 その後方から、さらに豪華な鎧にサーコートを羽織った二人の男がやって来た。


「おほぉ~、村の中にツノの種族がいるじゃないかぁ~! 後天的にこうなるとは珍しいなぁ~!」

「こ、このようなところへ、ようこそおいでくださいました……第三王子カール様!」


 特徴的な天然パーマの太っている男――英雄の国ヒューランドの第三王子であるカール・ヒューランド・ツヴァイブリュッケンである。


「いやいや~、ツノの種族から民を守るのは当然のことだよ~」

「まさかカール様自らとは……」

「それほど、民を大事に思っているってこと」

「さ、さすがカール様!」


 あの普段から偉そうな村長も頭を深々と下げて、他の村人たちも拍手喝采だ。

 それに引き換え、もう一人の男は興味なさげな表情をしていた。


「……このような矮小な存在に、騎士団がよってたかって手を下すこともないだろう。適当に野に放してやれ……くだらないから私は帰るぞ」

「じ、慈悲深い第一王子のテオドール様が仰るのなら! ホルンのことは追放で許してやりましょう! 実は最初から追放だけにしようと自分は思っていたんですよ!」

「ふんっ、汚らしい血で視界を汚したくないだけだ」


 スラッとした長身の男――第一王子テオドール・ヒューランド・ツヴァイブリュッケンはすぐに立ち去ってしまった。

 第三王子とは違い、かなりきつい言葉を投げかけられた気もするがホルンは命拾いしたのでホッとした。


「まぁ、兄上が言わなくても、ボクもそうしようと思っていたところだけどね~。あ、その村人くんをすぐに放してあげなさい」

「は、はい!!」


 優しい口調で第三王子が話しかけてきた。


「いや~、災難だったね~。肩身が狭くて村にはいられなくなるかもだけど、きっと別の場所でのんびりと平和に暮らせるさ。村長、村人くんに食糧や水、路銀などをきちんと持たせてあげるようにね」

「カール様の仰せのままに!」

「それと道中は騎士団が護衛もしてあげるから安心しなよ」


 ホルンは第三王子の優しさに、思わず涙を流しそうになった。


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます! この御恩はいつか必ず!」

「ははは、たぶんすぐに返してもらえるよ」


 今はまだ、ホルンにその言葉の意味はわからなかった。




 ホルンは我が家に別れを告げるため、一人で村の中を移動していた。

 これからのことで頭がいっぱいになっていたのだが、そのボーッとしている最中に声をかけられた。


「おい、貴様。ホルンと言ったか」

「え? あっ、テオドール様!?」


 信じられないことに、話しかけてきたのは第一王子のテオドールだった。

 高貴なる身分の第一王子が、ただの村人に時間を割くなどありえない。

 目を丸くしていると、テオドールは剣を取り出した。


「ひっ、まさか俺を殺すつもりですか!?」


 先ほどの攻撃的できつい彼の言葉を思い出して、思わず身体を震わせてしまう。


「勘違いするな、貴様にこれを渡しに来ただけだ」


 よく見ると剣には鞘が付いている。

 それをホルンにグイッと押しつけてきた。

 ワケもわからずに受け取るしかない。


「こ、これは……?」

「今あるものが真実とは限らない。常識を捨て戦わなければ生きていけないときもある。私が言えた義理ではないがな」

「いったい、どういうことですか……?」


 テオドールは何も答えずに立ち去っていった。

 まるでホルンがすぐに知ることになるだろう、とでも言っているようだった。




 そのあと村長から食糧や水、路銀などを受け取って、第三王子カールの騎士団に護衛されながら村を出ることとなった。

 騎士団は守りを固めてくれていて、ホルンは安易に移動できないほどだ。

 よほど、民を愛しているに違いない。


「村人くん、疲れていない? ペースは大丈夫? まだ歩けるかな?」

「あ、はい! カール様! ペースは大丈夫です!」

「うんうん、よかった」


 高貴なる身分なのに気軽に話しかけてくれて、ホルンは歓喜に満ち溢れていた。

 手の届かない位置にいる王族はもっとテオドールのように冷たい人間だけかと思っていたのだ。

 それと比べてカールはとても温かく感じる。


「あれ、道から外れていませんか?」

「こっちの方が近道なんだよ」

「さすがです! そこまで知識がおありになるとは!」


 カールを信じ切って、違和感をスルーしていた。

 それに気が付いたときには、もう遅かったのだ。


「程よく道から離れましたね、殿下。地図によると、この辺りが合流地点のはずです」

「カール様、どなたかと合流するんですか?」

「あはは、見てのお楽しみさ」


 何やら騎士団とカールは隠し事をしているようだ。

 草むらからガサガサと音がして、ほどなく十人ほどの男たちがやってきた。

 ホルンはそれを見て激しく動揺した。


「お、いたいた」

「えっ!? こ、こいつらって……」


 それもそのはず――それは以前から村を襲撃して、騎士団に追い払われていたツノの種族たちだったからだ。


「カール様! 危険です!」

「危険? 何を言っているんだ、村人くん」


 カールは王族特有の優雅な笑みを見せた。


「彼らを待っていたのさ」

「ふ~、まったく。カール様の指示でこのツノ付きのヘルメットをかぶってるけど、重いの蒸れるの何のって……」


 ツノの種族だと思われていたものは、ヘルメットを取るとただの人間だった。

 その状況にホルンは混乱してしまう。


「えっ、村を襲ってきたツノの種族が人間で、カール様の部下で……いったいどういう……」

「まだわからないのかい? マッチポンプってやつさ。村人たちはツノの種族からの脅威を追い払ってもらい、第三王子の僕の良い評判が広がるってわけさ。ま、こんな小さな村でやってるのはテストも兼ねてさ」

「そ、そんな……」


 そこでホルンは気が付いた。

 どうしてカールがこんなにも事情をベラベラと話してくれるのかと。

 平和な村で暮らしていたからといっても、持ち合わせている生存本能が危機を理解させるのだ。


「も、もしかして最初から俺を殺す気で!?」

「ようやく気が付いたのかい? これだから村人とかいう、いくらでも生えてくる(・・・・・)雑草のような存在は……」


 いつの間にか周囲の騎士たちが剣を抜いて、ホルンに突き付けていた。


「おっと、生えてきたのはツノだったね。ははは!」


 肥え太ったカールの下品な笑い声が森に響き渡った。

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