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魔王の恋人  作者: つきG
2/9

【2】ちょっと神と話してみた

「どういうことなの?」

アスタリオスは妻に向き直る。

「言葉通りなんだけど、補足するね。」

けっこうアタシ興奮してるかも、とアウロラがキラキラした目で話し出す。

「上位の存在ってなかなか話がわかるわね!」

・・・・ソウデスカ。

              *


アスタリオスが眠った後、アウロラはひとり今後のことを考えていた。

・・・・そりゃもう、人でなしな案をいろいろと。


「アスタリオスの記憶を消してルミナリオに戻す」

現実的だが、難しい。

魔物にさらわれて行方不明になっていた神殿幹部が記憶がありません、と言って突然戻ってくる状況。

彼と過ごした10年で人間社会のことはずいぶん勉強した。

おそらく尋問と拷問、魔物に何をされたかの苛烈な取り調べが待っている。

下手すれば命を落とすレベルで。


(人間てバカが多いからなあ。)


無いものをほじくりだすために、無駄なことをしまくって挙句、アスタリオスが命を落としたとしても、きっと何か自分だけ納得する理由をつけるのだろう。

そんな自己満足に大事な夫をつき合わせるのは真っ平だ。


そもそも、アウロラが好きで好きで、たった1日でもう離れたくないからと言って、ついてきたのだ。

アウロラとの愛の記憶を取り上げた場合、


(記憶をなくした後の心の喪失感が半端ない。しかも当人には原因がわからない・・・・。)


原因不明の「辛さ」を心に抱えたまま生きることになる。

はあ、とため息をつく。


(死はいつか来るものだし、それは仕方ないんだけど。アスタリオスには幸せでいてほしいんだよね。)


かれこれ500年の年月を生きてきた魔王である。

この世の理だの、自然の摂理だの学んで、かなり達観してはいるのだが、


(まさか寿命直前にこんな出会いがあるなんて。)


銀色に輝くまんまるお月様を見上げ、心の底からひとつの願いを口にする。


「ああ、アタシが人間の女性に成れたらいいのに」


化けるのは簡単であるが、魔王アウロラの寿命は何をしても1年後に訪れるのだ。

だから、そういうことじゃない。

その時である。


(いいネ、ソレ。)


何者かがアウロラの思考に突然割り込んだ。

しかもなんだか楽し気だ。

魔王である彼女の思考に許可なくアクセスできるようなモノをアウロラは知らない。


(誰?)


反射でサーチを開始する。


(わたしガ誰カ、アウロラには ワカッテいるハズ。)


アウロラの探索は遥か上方、天界に届く。


(まさか)


なんのブロックもなくやすやすと、発信地にたどり着く。

だが、そのものの存在を理解しきれない。

アウロラのキャパシティではそれを測ることができないのだ。


(そんなまさか)


(ドウシテまさか、ナノ? アウロラだって、わたしガ創ったものナノニ。コノ世界のスベテはワタシが創っタのに。)


ダイレクトにメッセージが届く。


(神?)


今アクセスできた存在は神なのか?

神なら魔物の敵である・・・・はず?

いや、そうだとずっと思っていた。

それがまるでアウロラを愛しいものであるかのように語りかけている。

正直混乱している。困惑させられている。だがもしアウロラの願いをきいてくれるのならば、救いの手をもしさしのべてくれるのならば・・・・。

この出会いを無駄にしたりしない。


(貴方は神?・・・・アタシ困ってるの。愛する男を悲しませたくないの。)


(わたしハ神。アウロラは困ってイルのだね?デモ、アウロラを喪っテ悲しむ自由ヲ彼から奪っテハいけないヨ。)


(悲しむのはアスタリオスの自由かあ・・・・まあ、そういわれればそうかも。)


そしてその自由はアウロラの心をほんのり温かくする。


(ダカラね、アウロラがドウしたいかヲ話そうヨ。)


アタシがどうしたいか?それならば。


(人間になってみるのはどうかな、って思ってるんだけど・・・・。)


(アウロラがそうシタイ?)


(ええ、そうしたい。アスタリオスのためって思ってたけど、もし彼の望む結果にならなくてもそれはそれでいいかな、って思うの。)


彼の存在がにっこり微笑んだのが伝わった。


(それナラ(ちから)ニなれるよ。決まマッタらオイデ。)


(魔王アウロラの寿命100日分相当使用してタマシイの元を作ルから、そして1日分ヲ人間寿命1年分に換算スルから、ソコ決めてキテ。)


まさかの日割り計算。


(え?日数でいったら何日残ってんだろ。ゆうべざっくり「あと1年」てわかったわけだけど。)


まあいい。そのへんはアスタリオスに相談しよう。

のほほん、としてるがアレはかなり頭の良い男だし。


               *


「まあそういうわけでね。事務処理的には、100日プラス寿命分残して、人間転生するのはどうかしら。」

えええ。いや、そりゃアウロラとこれからも一緒にいられるならそうしたい。けど。


うん、と妻は夫を見据える。


「そうよ。転生しちゃったら、人間の赤ちゃんよ。貴方のことも憶えていなけりゃ、貴方にはこの子がアウロラの転生体であることを確認するすべはないわ」

え?それじゃ、どうやってキミをさがしたらいいの?

「いや、母体は教えるけどね」

なんだ。それなら。

「わかってる?()()()、はそれだけよ?」


この女性から生まれる赤ん坊がアウロラの転生体であるという予言だけ。

それが唯一のかぼそい絆なのだ。


「その子はまっさらの人間の赤ちゃん。女の子に成れるのはアタシの希望でサービスしてもらえるけど、生まれたその子が貴方を愛する保証はないわ。」

「・・・・・」

「貴方の状況的には次の恋人をさがすのと何ら変わらない。」

「・・・・・」


アスタリオスはしばらく黙って考えていた。


「だからね、寿命いっぱい1年たくさんたのしい思い出を作るのもいいわよ」


アウロラは夫の紫紺の瞳をのぞき込む。


「あのね」

「ん?」

「その方法を探してきてくれたってことは、・・・・・わたしともっと一緒にいたい、って考えてくれたと思ってもいい?」

「そうね」


いつもの笑顔で笑う。


「あのね」

「うん」

「それで君が人間の赤ちゃんになってくれるっていうんなら、たとえ指定の女性から生まれなくても、きっとわたしは君を探し当てるよ。」

「うん」


かなり無理だと思うけど。

でも、コイツならやりかねない、とかちょっと思ったりもする。


「なんの目印もなくても、君だってわかる。」


うん、なんとなくわかりそうでコワイな。

でも・・・・泣かないでほしいかな。長いまつ毛が涙でボロボロだわ。


泣きながらアウロラを抱きしめてきた夫の背中に手を回す。

こうして異種間婚姻夫婦の今後の方針が決定したのだった。















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