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魔王の恋人  作者: つきG
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【1】魔王アウロラとそのダンナ

他作品「魔王君と光の御子」とキャラが同じで、別の作品になります。

うっかりそっちも読んでしまって混乱してしまった方がいらしたら、ホントすいません。


「あ」


金の瞳の女魔王、アウロラは虚空を見つめ、やや茫然とした。

やがて気を取り直したのか「ま、いっか」とつぶやいて、食卓に腰かけた。

その様子を、すでにテーブルについていた人間の男が見とがめた。

女性と見まごう美貌をみつ銀の髪の若い男、名をアスタリオスという。


「どうしたの?」


黒い髪の女の姿をした魔王アウロラは、どうやら目の前の男と同居しているようである。

食べてから話そう、とアスタリオスにパンをすすめる。


「アタシと違って貴方は食事が必要なんだし」


焼きたてにチーズがそえてあり、食欲をそそる匂いがしている。

人間にとっては美味しそうな料理ではあるが、魔王には栄養にならない。が、必要なくとも付き合い程度には口にする。夫婦が食を共にすることには大事な意味があるらしい、と悟った様子のアウロラは、アスタリオスの食事には付き合う方針だ。アウロラにはそういうところがあった。

好奇心いっぱいの妙なところのある魔物だった。


(まあ、だからこそこうして一緒にいるのだけど)


出会った当初、恐れるより、彼女に魅かれてしまったアスタリオスに対して、「アンタ面白い」の一言で同居をはじめるような妙に人懐こいところがあった。

同居するにあたってはそれはそれは「人間」アスタリオスに気を遣ってくれた。

これが「愛」かといわれれば、そうなんじゃないかと思うくらいには、アウロラとの生活は思いかけず楽しいものだった。


「貴方には人間の女が必要だと思う」


ある日突然そんなことを言うから、てっきり捨てられるんだと思ったら、言葉通りだった。


「人間の女の形態になってみた。」


そう言うと一糸まとわぬ姿で寝室に現れた。

まあ素敵。


「これでいいと思うんだけど、とりあえず試してみて?」


以来10年、ごくごく普通の人間の夫婦と変わらなく、暮らしてきました。

子供はいないけど、妻に満足しています。シアワセです。

といっても、アウロラの人間探訪につきあったりして、毎日ほぼ遊んですごしてきたので、「普通の」というと、生活のために一生懸命働いてる世のご夫婦に叱られるかもしれない。


食器の後片付けを、その辺の魔物に頼むと、お茶が出される。


「えっとね」


なんだか言いづらそうだ。


「寿命が」


はい?


「アタシあと1年で寿命が尽きるんだって。」


なぜに伝聞形なのですか?


「貴方まだ若いし、次の女探した方がいいかなってー。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「いやだあああああああああああ!!!!!」

一呼吸ののち、アスタリオスの涙の怒声が響き渡る。


(やっぱりこうなるか。)


泣きわめく夫の銀髪をヨシヨシしながら、アウロラは宙を仰ぐのであった。


                   *


アスタリオスは元神官であった。

要は魔王とは敵対勢力にあたる神殿の上層部。

しかも、よりによって神の愛し児とされる「光の御子」の降臨があった、ルミナリオ王国の神殿である。

さらにアスタリオス自身も「光の御子」ルミナス王子の最側近であったりした。

不運にも出張の道中で魔物の群れに出くわし、そこで運命の出会いをしてしまった。

金の瞳、黒い髪。白目に当たる部分が黒、と異形のアウロラであったが、恐れより何より、恋に落ちてしまうとか、運がいいのか悪いのか。

でもうっかり「イイ女~」とか思っちゃうのは個人の自由じゃん?


(魔王ってキレイなんだな。)

「あら、どうも。」

(心で思っただけなんだけど、もしかして心読んでる?)

「読んでいるというか、魔物だし?えーっと、強く心で想ったことなんかはわかるわね。」

(えええええええ。やだな。筒抜けかい。)

「そうなの。でも。」

(?)

「口に出して言ってくれた方がうれしいな。」

(えっと。では、)

「おキレイですね。」

「ありがとう。」

ふわりと微笑む。


「こういうときはありがとうって返すのでいいのよね。」

「間違っちゃいないけど」

「けど?」

(ありがとう、かあ。・・・・わたしには興味ないのかな。)

「あるわよ?」

(マジか。)

「あったらうれしい?」

(ああ、街中ならお茶でもいかがでしょうって誘えるのにな。)

「街でお茶飲みたいの?いきましょうか?」

「行きましょう!」もうなにがなんだか。


その足で最寄りの街まで同行し、普通の町娘に化けた彼女とお茶を楽しんで、その後食事しながら話して話して、宿屋に落ち着いてずーっと眠くなるまで語り合って、

「じゃーね」と去ろうとするのを、「攫ってください」と頼み込んで今に至る。


              *


「ひどい。」

冷静に考えれば、命があと1年なのだから、アウロラの方がかわいそうなのだが、当人はあっけらかんとしたもので拍子が抜ける。

別れが辛いのも、彼女がいなくなったらどう生きていったらいいのかわからないのも、彼だけなのかもしれない。


「いっそ、逝くとき殺していってくんないかな・・・」

「ええええ、ヤダ。」


帰ってきたらしい。

泣きわめくアスタリオスをヨシヨシしながら共寝して、目覚めたらいなくなっていて、今度こそ捨てられたかと涙にくれるアスタリオスを、魔物従者は「またかい」とあきれて見ている。


余談ではあるが、ちょっとでも離れると「捨てないで!」と縋りつかれるので、アウロラはこの10年独りでおでかけしたことがない。

人間社会に詳しいヒトガタ魔に言わせると、アスタリオスは夫としてはかなり「うっとうしい」部類に入るらしい。

それが面白かったので、アウロラは色んな人間のご夫婦の日常を観察してみた。

覗きかと言われれば・・・・まあ、その通り。

1日中ほとんど顔を合わせない貴族の夫婦などもいて、貴族出身のアスタリオスに意見を聞いたみたが、

「よそはよそ!うちはうちです。」と口をとがらす。

アンタは平民のオカンか・・・・。


「えっとね」


いつもの口ぶりである。捨てられたわけではないらしい。


「ちょっと神と相談してきた」

ちょっとだと?

「うん、夫が泣くから、どうにかならないかって。けっこう親身に話聞いてもらって、色々話し合ってきたー。」

ええと。神殿は魔物退治の中心組織・・・・、まあいいや、どうぞお続けください。

「でね、魔王の寿命1年と引き換えに、人間寿命をゲットするのはどうかって言われたんだけど」

「??」

「つまり、アタシこれから人間の赤ちゃんになって、そっから平均寿命くらい貴方といようかと思うんだけど、貴方どう思う?」







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