その6
ひと通り、俺は自分の説明をして、それから大泉さんを見つめた。
「まあ、これで、この店と、俺の関係はわかってくれたと思うけど」
「あ、うん。わかった」
なんと言ったらいいのか、うまく形容できない表情をしながら大泉さんがうなずいた。
「でも、あの、びっくりした。すごくいろんな意味で」
「私も最初は驚いたんだよ」
朱美さんも笑顔のまま同意した。
「なんせ、ラーメン屋をやっている私より伸一くんのほうが詳しかったんだからね。まあ、私は仕事でやってたってだけで、そこまでこだわってなかったんだけどさ。本物のラヲタってこうなのかって思ったもの」
「俺はラヲタじゃなくて、ただのラーメン好きですよ」
本物のラヲタに比べたら、俺なんて幼稚園児みたいなもんだ。考えながら返事をした俺の目の前で、大泉さんが手をあげた。なんか、ちょっと困った顔をしている。
「あの、ごめん。いまのもわからなかった。ラヲタって何?」
「ラーメンヲタクのこと」
返事をしてから、大泉さんにむき直った。
「それで、どうする? 朱美さんは、俺に、大泉さんのお姉さんのお店の立て直しをするように言ってきた。店長がバイトに言ったんだから、俺は立場上、その通りにするしかない。大泉さんがノーサンキューって返事をしたら話はべつだけど」
「――うん」
大泉さんが少し考えた。
「じゃ、あの、伸一くん、お願いします」
「わかった。じゃ、これからお姉さんのお店にお邪魔しようか」
俺は寄りかかっていた壁から身体を起こした。
「じゃ、朱美さん、今日はこれで失礼します」
「行ってらっしゃい。次の土曜日も頼むから」
そのまま、俺と大泉さんは「とんこつらーめん ひずめの足跡」をでて、電車に乗って三個先の駅で降りた。大泉さんが自分のスマホをだしていじくりだす。
「いまから行くって連絡をいれたから。あとはバスに乗ってすぐ」
「具体的な時間は?」
「十五分くらい」
で、そのバスに乗りながら、俺はいくつか、大泉さんに質問してみようって気になった。
「あのさ、大泉さん、ラーメンのスープの種類って、思いつくだけ、ちょっと言ってみてくれないかな?」
「え、何それ?」
大泉さんが、なんだか不審そうに俺を見てきた。
「それって、ひょっとして、何かのテスト?」
「あ、テストって言ったらいいのか」
俺も言葉に詰まった。少し考える。
「実は俺も、大泉さんのことをもっと知りたいって思ったんだよ」
俺は真顔で大泉さんを見つめた。俺の表情を見た大泉さんが、急に目を見開く。少し顔が赤い。
「ななな何を言うのよいきなり」
「え、何をって――」
なんだかわからずに言葉を繰り返しかけ、俺は気づいた。
「あ! あの、そういうことじゃないから。俺が言ったのは、大泉さんの、ラーメンの知識についてのことだから。ほら、大泉さんのお姉さんがラーメン屋だってのはわかったけど、大泉さん本人がどれだけラーメンについて知ってるのか、俺、全然わかってないし。そういうのって知っておかなくちゃ、あとで面倒なことになるかもしれないし。こういう質疑応答は常識だと思うけど」
あわてて俺が理由を言ったら、急に大泉さんが冷えた目つきになった。
「あ、そうか。ラーメンについてね」
言って、ちょっと視線を逸らす。怒らせちゃったかな。
「それで?」
仕方がないので、そのまま待っていたら、気持ちを落ち着かせたらしい大泉さんがこっちをむいてきた。