その6
「あのう」
少ししてから俺は口を開いた。弥生さんは、相変わらず、恥ずかしそうに笑って俺を見ている。
「いま、なんて言ったのかな?」
「だから、付き合ってって」
弥生さんが、さっきと同じく、なんだか恥ずかしそうな顔で言ってきた。聞き間違えじゃなかったらしい。
「それはその、ラーメン食べ歩きに付き合ってって意味かな?」
念のために確認したら、弥生さんが、少しだけ表情を変えた。
「男女の交際って意味なんだけど。とぼけてるの?」
不機嫌そうに言ってくる。勘違いでもなかったらしい。というか、ヤバイ! いままでのラーメン関係の話と違って、こういうのは俺のデータにないぞ!!
「ちょっと質問いいかな?」
なんで下駄箱でこんな話をしてるんだろう、と、頭の片隅で思いながら、俺は弥生さんに話しかけた。
「どうして俺なんかに、そんな」
訳がわからないから聞いたら、弥生さんが赤い顔でうつむいた。
「だって、伸一くんって、ラーメンにすごく詳しいし。――なんて言うのかな。ほら、スポーツで言ったら、野球とか、サッカーとか、テニスとか、何かに熱中してる人って、格好いいじゃない? 私、伸一くんと話をしてて、そういう人なんだなって思っちゃって」
「ああ、なるほど」
言われてみれば、そういうふうに見えないこともない、かもしれないけれども。普通は俺みたいな奴なんて、ラーメンオタクのキモい野郎だって見られると思ってたんだが。ラーメン屋で、何が売れるのかわからないどころじゃない。何がモテるのかわからない状況になってきた。
というか、俺はどうしたらいい?
「あの、気持ちはすごくうれしいです」
ほかになんて言ったらいいのかわからないまま、とりあえず俺は弥生さんに返事をした。
「ただ、どうリアクションしたらいいのか。――いますぐに返事はできないんで、少し待ってもらえませんか?」
「あ、それはいいけど」
恐る恐る言った俺に、弥生さんが素直にうなずいた。
「で、少し待つって、具体的にどれくらい?」
「えーと、あの。じゃ、今週の金曜日までに」
「あそ。じゃ、それがタイムリミットだからね。それまでに返事がなかったら、断ってないんだからOKだって判断をするから」
「ああ、うんうん。じゃ、そういうことで。今日はさようなら」
俺は靴を履き変えて校舎から飛びだした。逃げだしたと言ってもいいかもしれない。
で、翌日の火曜日。
「あのさ、聞いてほしいことがあるんだけど」
俺は昼食のあと、スマホで遊んでいる川崎、鈴木、本田の三人に声をかけた。三人が、ちょっと驚いたように俺のほうを見る。
「なんだ? なんか用か?」
「鈴池から話しかけてくるなんて、いままで一回もなかったんじゃね?」
「言っとくけど、ラーメンのウンチクなら聞かねーからな」
三人が口々に言ってくる。やっぱり俺ってそういうふうに見られてたのか。まあ、それはいいんだが。
「ラーメンじゃなくて、少し相談に乗って欲しいんだよ。俺ひとりじゃ、どうにもならない問題でさ」
「――あ、そうなんだ」
川崎が言い、残りふたりも表情を変えた。冗談じゃなく、俺が本気で困ってるって気づいたらしい。そのまま、スマホを置いて俺を凝視した。
「まあ、相談に乗るくらいなら、べつにかまわないけど」
「なんだよ、言ってみろよ」
「笑ったりしねーから」
やっぱり、口々に言ってくる。俺も少し覚悟を決めた。
「実を言うと、ある人から告白されたんだ」
少し、間があった。
「「「は!?」」」
「ちょっと待て。おまえがか!?」
「ありえないだろが常識で考えて!」
「どこのラーメンデブ女子だよ!?」
怒鳴りつけるみたいに言ってくる。まあ、気持ちはわからなくもない。なんでこんなことになってるのか、俺にもわからないくらいだし。
「べつにラーメン好きじゃなくて、デブでもなかった」
言ってる俺の視界に弥生さんが入ってきた。川崎たちのリアクションで話の内容が聞こえたらしい。うわ、まずったな。弥生さん、いまどんな表情をしてるんだろう。とりあえず、川崎に視線を集中させると、川崎も鈴木や本田と顔を見合わせた。
で、少しして川崎が俺を見た。
「わかった。じゃ、なんとかしてやる」
「どんな男にも、一生に三度はモテ期がくるって言うけど、たぶん、おまえの場合は一回だけだから。というか、ラッキーに思いやがれ」
「その女は大事にしてやれよ」
俺がOKすること前提でものを言ってきた。やっぱりそうなるのか。
「とりあえずだな? 放課後、いまの話は、もう一回聞かせてもらう。アドバイスはそれからだ」
「あ、うん。わかった。じゃ、放課後に」
言って俺は川崎たちから背をむけた。というか、俺は弥生さんの視線から逃げだしたかったのだ。




