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ラーメン屋さん立て直し奮闘記  作者: 塩幸参止
第四章
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41/62

その8

        3




「私、先々週も、先週も、今日も伸一さんにラーメンを食べてもらいました」


 俺が何か言うよりも先に、皐月さんが言いだした。


「それで、何かラーメンスープに問題はありましたか?」


「いえ。なんにもありませんでした」


「じゃ、どうして」


「まあ、何事も念のためですよ。これから先も、絶対に出汁のとり方に失敗しないって保証は誰もできないわけですし」


「え、ちょっと待って。何? いまの会話?」


 ここでわかってない弥生さんが声をかけてきた。


「さっきの私の答えって、正解じゃなかったの? なんか、お姉ちゃんと伸一くんだけで、急に違う話をはじめちゃったみたいなんだけど」


「あー、正解は正解だったんだよ」


 俺は弥生さんに返事をした。


「ただ、五〇点だったんだ。それは第一の理由。もうひとつ、見えてないところがあってね。皐月さんは気づいたから、そのことを話してるんだ」


「え、それって」


「出汁のとり方に失敗したときの保険よ」


 これは皐月さんの返事だった。


「ほら、ラーメンの出汁って、豚骨、鶏ガラ、煮干しみたいに、あつかいに失敗すると臭みのでちゃう食材が多いから。で、少しくらい出汁をとるときに失敗しても、醤油ラーメンや味噌ラーメンは問題ないのよ。そもそもが発酵調味料なんだから、それを入れておけば、ある程度はごまかしが効くし」


「ところが、塩ラーメンにはその方法が効かないんだ」


 俺は話を補足した。


「あたりまえの話だけど、塩ラーメンっていうのは、基本的に塩ダレで味付けする。で、塩には発酵調味料のような香りはない。だから、出汁の旨みや風味がダイレクトに伝わってくる。つまり、絶対に臭みがでないように丁寧な出汁のとり方が要求されてくるって流れでね。塩ラーメンってのは地味なくせに面倒くさいんだよ」


 俺の説明に、弥生さんが意外そうな顔をした。


「そうなんだ。塩ラーメンなんて、塩で味付けするだけだから、簡単で手抜きだと思ってたのに」


「シンプルなものほど難しいっていうのは、どこの世界にもある言葉でね。複雑なものには通用する、あちこちで適当に調整してなんとかするって方法が使えないから。だから、一般的な塩ラーメンには隠し味に醤油を入れてるんだし」


「は?」


 弥生さんの意外そうな表情が倍増しになった。


「え、塩ラーメンって、醤油が入ってるの? じゃ、醤油ラーメンになるんじゃない?」


「そうならないように、みんな分量には気を使ってるんだ。あとは、さっき皐月さんが言っていた、白醤油を使う手とか。白醤油ってのは小麦でつくる醤油なんだけど、黒くなくて琥珀色だから、かなり多めに入れてもお客さんにはバレにくい。それで、発酵調味料の香りをなんとか添加して、おいしいって言われるレベルの塩ラーメンをつくってるんだよ。一番わかりやすい例は豚骨塩ラーメンだね。あれはスープの色が変わらないレベルで醤油を入れるのが一般的なセオリーになってるし。それで、豚骨の臭みを消す&グルタミン酸を加えて、豚骨のイノシン酸との旨みの相乗効果をひきだしてるんだ」


 言葉を区切って、俺は弥生さんの反応を見た。少しして弥生さんが口を開く。


「ラーメン業界って、どこもかしこも嘘ばっかりじゃない。醤油を入れてるのに塩ラーメンなんて」


「べつに嘘じゃないよ。メインの味付けは塩なんだから、塩ラーメンって名前で何も問題はない。ただ、香りつけに醤油を使ってるってだけなんだ。だけど、いまの弥生さんみたいなことを言う人は必ずいる。だから、今回は白醤油の代わりに塩麹を使ったんだよ。理由は皐月さんも言ってたけど、出汁のとり方に失敗したときの保険というのがある」


「あ、そうだ。それがあったよね」


 話を戻した俺に、弥生さんが思いだしたみたいな調子でうなずいた。


「それってどういうこと?」


「どういうことも何も、さっき、皐月さんが言った通りの意味だよ」


 俺は普通に返事をした。

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