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ラーメン屋さん立て直し奮闘記  作者: 塩幸参止
第三章
31/62

その10

「ちょっと説明するけど、家系で、デフォの状態で、かなり塩分の高い店があるんだよ。で、昔、俺が行って、いつもみたいに、固め、濃いめ、多めで注文して食べてたら、しょっぱいって声が聞こえてきて。振りむいたら、家族連れのお客さんの、小さい子供がそれを言ってたんだ。ほら、子供って正直だし。で、俺も冷静になって味わってみたら、確かにしょっぱかったんだよ。そこで、あれ? 俺って何かおかしなことになってないかって気がついてさ。それから、定期的に日高屋に通うようにしたんだ。ほら、あそこって、毎日食べても飽きない、普通の味を提供して、それで繁盛してるチェーン店だから。迷ったときは基本に帰れとも言うし。だから俺も日高屋で食べて、あ、そうそう。普通のラーメンって、こうなんだよなって再確認をしてから、あらためて食べ歩きをしてるんだ。だから、俺のなかでは、この店のラーメンは日高屋に比べて出汁の成分が強いとか弱いとか、塩分が高いとか低いとか、そんな感じで判断してる」


「――ふうん」


「それに、日高屋だって、べつにまずいわけじゃないよ? 中華そばはリーズナブルだし、それなりのレベルだし、ファンも多いし。とんこつラーメンは麺だけ食べて、残ったスープにチャーハンを入れてリゾット風にするとおいしいとか、味噌ラーメンはラー油と酢を入れて味変するとスーラータンメン風になるなんて情報もネットに載ってるし。期間限定のチゲ味噌ラーメンは、ラーメン好きのアイドルがランキング一位にしたくらいだし」


「そうなんだ」


 少しして弥生さんが返事をした。それはいいけど、なんだか困ったような顔をしている。


「あの、話はわかったんだけど、そういう、迷ったときは基本に帰れとか、そんな極意みたいなことを言われても、私には応用が利かないし」


 口を尖らせながら言い、弥生さんが俺を見た。


「じゃあね、あのう、違う質問をするけど。たとえば私が、女子の友達と話をしていたとするじゃない? で、そのとき、私、前にこんなお店に行ったんだって感じで、話題にできるようなラーメン屋さんって言ったら、どんなのがある?」


「あー、だったらラ博だな」


「あ、なるほど。ラ博ね」


 俺の返事に、感心したように弥生さんがうなずいた。で、あらためて弥生さんが俺のほうをむく。


「あのさ、ラ博って何?」


 俺は椅子からずり落ちそうになった。


「えーと、俺、過去に何回か、弥生さんがいる前で、ラ博って言ったと思うんだけど?」


「うん、あの、ごめんなさい。私、実を言うと、わかったようなふりをしてたけど、全然わかってないでうなずいてました」


「あ、そうだったんだ」


 なるほど、知らないって恥ずかしくて言えなかったんだろうな。


「じゃ、説明するけど、ラ博ってのは新横浜ラーメン博物館の略だよ。地上一階は本当に博物館なんだけど、地下一階と二階は昭和を再現した映画のセットみたいになってて、厳選されたラーメン屋が出店してる。行って写真を撮って友達に見せたら、それだけで結構な話の種になると思うから」


「あ、そうなんだ。それで、新横浜ラーメン博物館ってどこにあるの?」


「新横浜」


「あ、そうか。そりゃそうだよね」


「まあ、行ってみればわかるよ。それから、知らないのに知ったかぶりするのはやめておくべきだね。すぐばれるから。昔、G系のインスパイアじゃなくて直径店で、食券をだしていきなり呪文を唱えて注意されて、しかもヤサイだけ食べて麺まで到達できずに帰ったお客さんがいて、あいつは天地返しも知らないのかって馬鹿にされまくったって話がネットに載っててさ」


「あの、ちょっと待って伸一くん」


 仕方がないから過去の事例を話したら、弥生さんがすまなそうに手を挙げた。


「いまの話、『G系』の時点で、ひとつもわかりませんでした」


 俺はバスの天井を見あげた。外だったら天を仰いでいただろう。想像以上と言ったらいいのか想像以下と言ったらいいのか。


「あのさ、G系っていうのは――」


 最初から細かく説明してる最中に、バスが駅に到着した。

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