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ラーメン屋さん立て直し奮闘記  作者: 塩幸参止
第二章
18/62

その6

「いまだに勘違いしてる人がいるんだけど、コラーゲンっていうのは、人間が自分の身体のなかでつくりだすものであって、外側から摂取しても、胃液で分解されて、アミノ酸の粒になって、それから腸で吸収されるもんなんだ。つまり、赤身肉を食べても、コラーゲンを食べても、体内に入ってくる栄養は同じってことになる」


「「は?」」


 意外そうな声をあげたのは弥生さんだけではなかった。皐月さんもである。こちらも知らない人だったか。


「そうだったの?」


「そうだったんですか?」


 ふたりして訊いてくる。俺はうなずいた。


「まあ、運動した直後だと、特別に、コラーゲンをコラーゲンのまま吸収する、なんて学説もあるらしいんだけど、基本的には意味がないってされているんだ。その証拠に、菜食主義の人は野菜と穀類ばっかり食べていて、コラーゲンとは縁が無いけど、じゃ、特別に肌がガサガサかって言うと、そんなことはない。これは、コラーゲンが体内でつくられているからで、外部から摂取する、しないは関係がないからだ。――こんなふうに言われていて」


「――あ」


 少しして弥生さんが驚いた顔をした。言われてみれば、いま気づきましたって感じである。


「ちょっと待ってよ伸一くん」


 弥生さんが怒ったみたいにメニューを指さした。


「じゃ、これ、詐欺じゃないの。美容に関係ないんだったら、こんな――」


「美容にいいなんて書いてないけど」


 俺が言ったら、弥生さんが、不機嫌そうにメニューを見返した。


「あ、本当だ」


「そこに書いてあるのは、豚骨スープの濁りはコラーゲンってことと、栄養たっぷりってことだけだ。ついでに言うと、栄養たっぷりも嘘じゃない。胃液で分解されて、アミノ酸の粒として吸収されるんだから。で、アミノ酸を摂取している以上、カロリーはあるってことにある。そういうものを食ったら普通は健康になるから。おいしく食べて健康になりましょうって言葉も事実になるんだ。広告詐欺は一切してないんだよ。あとは、読んだ人間が勝手に勘違いしたってだけの話になるな」


 ここまで説明して、俺は弥生さんと皐月さんを交互に見つめた。


「俺の言葉に、何か問題になるところはありましたか?」


 少しして弥生さんと皐月さんが口を開いた。


「――ない。すっごくずるいとは思うけど」


「とりあえず、悔しいけど、何も反論できません」


「そりゃよかった。じゃ、次。下のほうの、とんこつ坦々麺のアピール文章。これも同じく、言葉のマジックが使われてるんだけど、わかるかな」


「えーと」


 弥生さんが興味深そうにメニューをのぞきこんだ。興味がでたのか、間違い探しのクイズを見るような顔つきである。


「あー駄目、わかんない」


 すぐに顔をあげた。あきらめるの早いな。


「これ、嘘はついてないんだよね?」


 確認してくるから俺はうなずいた。


「事実しか書いてないよ」


「じゃ、どこにマジックがあるの?」


「種明かししていいかな?」


「うん」


「はい」


 ふたりの返事を確認してから、俺は白ゴマとんこつ坦々麺のアピール文章を指さした。


「ここに書いてあるゴマリグナンって成分、白ゴマにも黒ゴマにも、どっちにも入ってるんだ」


「「は?」」


「もっと言うと、白ゴマと黒ゴマって、成分はほとんど変わらない。唯一、黒ゴマにはセサミンやアントシアニンが入ってるってだけなんだ。これはポリフェノールの一種で、黒ゴマの色はこれが由来だって言われてる」


 あらためて弥生さんがメニューを目をむける。俺の言ってることを確認してるらしい。

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