総じて:平穏な日常
最後です。
ちなみに蛇足ではないです
斜陽が射す工場地帯、まばゆいパトカーのランプを覆い隠すように真っ赤な夏場の夕焼けは湿度に曇ってぼやけていた。
「いつも協力、感謝しているよ」
「今度こそちゃんとブタ箱にぶちこんでくださいね、頼みますよホント…」
「ごめんて…さすがに今回は殺人未遂だから、しかる手順を踏んだ後にちゃんと特殊刑務所送りになるよ」
度重なって部長が事件に顔を突っ込んだ結果、出会って半年たたずであるのにもかかわらずすっかり顔なじみになってしまった警察官に心からの言葉をかける助手。
主謀犯の金髪の男含め7人の男たちを地面に伸したのち、いつも通り警察に連絡し身柄を拘束して貰っていた。
「にしてもビーストテイマーのチューニ病、まるでポケm「そうですね、ちょっと危ないんでそこらで止めてもらえますか?」
危うくホントに危ないことを口ずさみそうになった部長を静止する、助手は全身から汗が止まらなかった。
今回ミーちゃんが一切微動だにしていなかったのは、顔面を3倍近く腫れてしまった哀れなビーストテイマーの能力が某モンスター育成ゲームに出てくる球状のモンスター収納アイテムに近いものであり、それによってミーちゃんを動物を収納できる不思議空間に格納していたためであった。
なお今回の奇襲によって若干命の危機を覚えた助手による憂さ晴らしにより、彼は泣きながら自身の能力の詳細から今回の犯行経緯まで全て暴露したため、それにて一件落着となった。
ちなみにこのビーストテイマー君(19)は今回の一件で唯一部長と助手に恨みがなく、他6人に雇われたアルバイトだった。どうやら騙されただけらしく、泣きながら脅迫されて犯行に及んでしまったことを謝罪し自白する途中でそれを察した助手がだんだん申し訳なさそうな顔をしたのは言うまでもない。
「それにしても今回の件でわかったんですけど、本格的に俺の能力の弱点バレてきてますね。
そろそろ石橋を叩いてわたるった方がいいかもしれない…」
「まあ助手君の能力は希少だから、ネットで調べるだけで対策の検証とかされてるし仕方ないよ」
『検索』は”知りたいことしか知ることができない”。つまり、検索した結果出てくるのは知りたいと思った範囲に限定されそれ以上の情報が出力されることは決してない。
それは今回の件で分かる通り、本人の予想外の事態には後手でしか対処できないという割と致命的な欠陥であった。
しかしその『端から見れば一見全知全能にすら思える』能力の希少性から、あらゆる学術機関や政府、それだけではなくチューニ病を悪用する反社会的な組織からも喉から手が出るほど求められている人材である。
そしてその能力が知れ渡っているということは対策が講じられているということである。世界各国のネット掲示板などでは最強能力論争が絶えず行われ、それに対抗する手段が講じられていた。2人は具体的に知る由もないだろうが今回の襲撃計画もその仮説を基にして立案されており、事実助手の能力を裏をかいているため成功したといえばその通りであろう。
「にしても、なんで助手君は研究機関とかに所属しないの?
引く手数多だったでしょ?」
ふと何かを思うところがあったのだろうか、少し悲しげな表情を作った部長が唐突に尋ねた。
その”何か”を察した助手は明後日の方向を向き、頬を軽く掻いてぶっきらぼうに答える。
「…そもそもそういうの、柄じゃないんですよ。
あとここにいたとしても、部長がいれば俺の身の安全は最低限以上に保障されてますしね」
つまりは『そういうこと』である、悔しいくらい惰性でしかしちゃんと青春だった。
曇っていた表情から一転して花が咲いたように笑顔になった部長が機嫌を良くして帰路についた。その後ろから”夕焼けのせい”で顔がまるで赤面しているように見える助手が付いていく、蝉の音が煩い小道をぐんぐん進んで、田舎と呼ぶには現代的で、都会というには田舎すぎる街を歩く。
しばらく歩き、日も地平線へ沈むような時間帯。
20分ほどゆっくりと歩いて工場地帯を抜け、繁華街から少し先の比較的新しい住宅街に入ると、2人は足を止めた。
「じゃあね、助手君」
「はい、また」
ブンブンと手を大きく振る笑顔の部長が助手に別れを告げ、気だるげな様子の助手が軽く手を振り返した。
そして2人は建売で似たような作りのそれぞれ隣の家に消えていく、2人は幼馴染というだけあって文字通り隣に住んでいた。
これは、超能力で荒れた社会から復興した近未来社会。
そこでそこそこの騒動に巻き込まれ、そこそこ頑張って、そこそこ青春しながら非日常的な日常を過ごす2人の男女の生きる様子を切り取ったお話━━
「ちょっと待て!よく考えたら今回の一件、部長が正規の方法で依頼を取ってくればそもそもこんなことになってないじゃないですか!!!」
ガシャン!
乱暴に窓を開け放つ怒り心頭といった様子の男子が一人、その窓の先にはこれまたお隣の家の窓があった。
その先に見えるは露骨にすら思えるほど表情豊かに『あ、やっべ』と言った表情を取る女子が一人。
その怒鳴り声に表情を変えた部長は、すぐさまニコニコと笑顔を作り窓に近づくと…ピシャンと勢い良くカーテンを閉めた、これまた露骨である。
「あっ、おいコラ!?
ふざけんな!今日という今日こそ二度とこんなことにならないようミッッッチリ言い聞かせてやる!!!!カーテンを開けろオイ、永久保存版全身隈無くミニマムサイズ!!」
ガラガラ。
部長がなぜか静かに窓を開け放った。しかしその顔を俯かせて表情がわからない、少なくともいつもの能天気さを感じる様子ではない。
そしてゆっくりと顔を上げ助手に向けると、その顔は明らかに作った笑顔とともに大きく脈打つ血管が額に浮き出ていた。
「近所迷惑!あと誰が貧乳だコラ、毎年成長してるわバーーーーカ、バカ!インテリぶってる陰キャ!!」
「お、やるかコラ。
こちとら同い年のはずなのに、全く持って全然成長しないちっちぇえ女子のお守りを家族教師はたまたそいつの友人から誰から誰まで全員から任されていい加減疲れてんだよなあ!!?」
「うるさーーーい!!
いいんです〜、私の方がアンタよりちょ〜っと早く生まれたから昔さんざんお世話させられたからいいんです〜!!
昔は私にべったりだったんだから今度はアンタが私のわがままを聞く義務があるんです〜!!!」
なお口論は1時間近く、両者の母親が怒声とともに鉄拳制裁を落とすまで止め止めなく続いた。
ついでに言及しておくと近所に住んでいる住人は定期的に行われるこの喧嘩にいい加減慣れ始めたらしく、大して近所迷惑だと思っていないらしい、むしろ微笑ましいという意見が多いという統計結果が出ている。
ちなみに今後も一切懲りずに部長は勝手な依頼を持ってくるし、それに対して助手が怒り続けたらしいので助手はいろんな意味で報われないようである。
合掌。
<基本骨子>
チューニ病:現在進行形で全くもって発生原因不明の未知の現象。
研究が不十分だった段階では遺伝子異常によって引き起こされる未知の奇病であるとして『先天性異常能力症候群』という小難しい名前が付いていたが、この世界のネット掲示板において『チューニ病でええやろw』ってノリでそれが浸透、現在では『少なくともこの現象が病ではないこと』のみが漸く解明されたが、相変わらずチューニ病という名称で呼ばれている。
現在の仮説では、曰く能力を最初に発現した人間が何かしらこの現象の起源に大きな影響を与えているというのが主流だが…?
ウケたら連載するかもしれませんね。
あと、こんな感じのノリとテンションの連載作品を絶賛書いているので、こういう作品がお気に召した方は私のマイページから現在連載中の作品にも目を通していただけると幸いです。