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総じて:阿吽




助手は口では喧嘩腰だが部長の背後に付き、そして部長も口笛を吹いて巫山戯ているようだが、しかしそれぞれの背中を守るような陣形を組み即座に警戒状態に入る、互いの顔には暑さからくるものではない汗が垂れ流れ始めていた。

どこか遠くで工具がからんからん床に散らばる音がすると、手元に先ほど弾き飛ばした工具と同等のものを握っている一人の黒い学ランを着た男子学生が錆の入った大型設備の裏から姿を現す。

その生徒の周囲には無数に大小様々な機材や工具、石飛礫がふわふわと浮いていた。


「サイコキネシスのチューニ病…聞くまでもないけどお前が俺らをここに誘き寄せたのか」

「待ってたぜ、三郷高校の偽善者クラブ」

「…そういう君はどこのどなたかな〜?」

「まあ別に誰でもいいだろ、おめえらに恨みを持ってる人間ってだけだ」


ガラの悪い金髪男子の『偽善者クラブ』という言葉に対し、部長は一歩前にでながら間の抜けたような普段通りの口調を崩さず応対する。しかしその顔からはいつもの冷や汗が一筋垂れ、体勢もいつでも万全に動けるよう若干中腰を保ったままだった。


(検索、対象変更:『周辺にいる敵対者』…ッ!?)


施策した結果思い浮かんだ考えうる限り最悪の予想、その万一の可能性を考えて男子学生の死角となる部長の背中を遮蔽として利用し、助手が検索をかける。そして返ってきた機械的な解にその目を疑った。


手元のウインドウには改めて廃工場を上方から俯瞰するように展開された図、そしてそこには自信と部長を中心とし、それを包囲するように敵対者を示す危険色のピンが7本立っていた。


「ッ?!

部長!拙ッ「おめえらに恨みのあるやつなんて探しゃ幾らでもいんだよォ!やっちまえェ!」


助手から部長に対する警鐘に被せ、不良といった雰囲気の男子生徒が唐突に叫んだ。

それを皮切りとして四方八方から火球や工具や中型機材、熱を帯びた光線などが一斉に二人を殺害せんと投射される。


物体同士が高速でぶつかり合った凄まじい轟音が廃工場内を支配すると、その余波として衝撃波と共に大量の土煙が舞い上がった。


「はは、とんでもねえ!?

これで生きてたらバケモンだぜ…」


衝撃波と砂埃により、反射的な反応としてとっさに目を瞑った不良然とした男が目を開く。

眼前の投擲された機材や瓦礫によってできた2m大の瓦礫の山を見た金髪の男が感嘆を漏らした。


助手と部長を完全に殺しにかかった結果出来てしまった立体的な包囲攻撃によって成されたその不恰好なオブジェクトは、放射熱線や火球を受けて所々が焦げ付いたり機材を構成していた金属部が融解し、高温を表すように陽炎を立ち込め未だ冷えずに湯気が舞い上げる。


衝撃波によって巻き上げられた煙が落ち着くと、助手の検索に引っ掛かった通りに機材や2階に隠れていた7人の男たちが姿を現わした。

その集団は姿格好、年齢すらバラバラだが、全員共通して頭髪の色が派手だったりピアスを大量に着けていたりとガラが悪い印象を覚える風貌である。


金髪の不良学生が言った通り、彼ら7人は助手と部長に過去にメッタメタのギッタンギッタンにされて二度と同業者やつるんでいた奴らと面を合わせられないほどの赤っ恥を掻かされた経歴の持ち主であり、その恨み辛みから今回の襲撃計画を立てていた。


そして、ない頭からひねり出した彼らなりの綿密に立案され実行した計画により、見事怨敵を打ち倒した達成感から彼らの間で徐々に歓喜に沸いた、中にはよほど感極まったのか若干涙ぐんでいるものもいる。


「やったか…?」

「は?おまっ、馬鹿ッ?!」


しかしその気の緩みが仇になった。

うっかりと口が滑ったのか、はたまたやはりそういう宿命なのか、誰かが静止したのも虚しく戦闘中で言ってはいけない台詞第1位として挙げられるであろう台詞を言ってしまったその瞬間、焦げ付いた瓦礫の山が突如として爆発したかの如く粉々に吹き飛んだ。


「こんなの効くか〜っっ!!!!!」

「やっぱり今日こなければよかった…」


お決まりのセリフを言ってしまっては、やはり案の定といったところだろうか。


爆熱と超熱で所々が溶けかけている金属とコンクリート製のラブルの塊を内部から粉砕し、その中から肌に擦り傷すらない部長と同じく全く無傷だがどこかやるせない表情で文句を呟く助手が姿を現した。

逆に瓦礫の破片を散弾の如く浴びた7人は各々の服や肌に無数の切り傷を作り、しかし全員が同様に目を丸くし絶句する。


「っ!!?」

「バケモンかよッ!!?」


嘆きのように悲痛な叫びが四方から漏れる。

それと同時、どこかうなだれ気味といった様子の助手が部長とアイコンタクトを取ると、そのままため息まじりに懐から筒状のラムネ菓子を取り出し無表情のまま一気飲みの要領で口に全て放り込みバリボリとむさぼり食らった。


そしてそれを嚥下すると勢い良く右の指を弾いた。

小気味良いパチンという音が廃工場中に反響すると、自身と部長を起点として2人を覆うようにドーム状の形をとった大型ウインドウが展開する。


球状に2人を包み込んだ半透明のウインドウは廃工場の景色を貫通して映し出すが、7人いる敵対者に被せるようにその位置を指し示して円状の赤いロックカーソルが投影する、部長はそれを確認すると同時に拳をカチ合わせ、さながら鬨のように気合を入れた。


「カーソル設定完了、投影設定変更、自動追尾…はするまでもないか。

内訳はあそこの金髪含めサイコキネシス使いが2人、パイロキネシス使い3人、熱光線使いが1人と…ビーストテイマーが1人です、OK?」

「オーールライッ!!!」


さながらロボットアニメのコクピット内。

全天周囲に映し出された廃工場の景色には慌てふためきながら逃げようとしたり、攻撃の態勢に移行している男たちがサークル状のの紅い固定カーソルによりターゲティングされている。そして敵対者の位置を正確無比に割り出すという相棒による最高のお膳立てを受けた部長は自身の拳をカチ合わせながら、大きな声で了承した。


その高らかでハイテンションな返事が聞こえると、すぐさま助手が腹ばいに横たわり頭を守る様な体勢を作ると耳と目を力一杯に塞いだ。


その直後、文字通り空気が爆ぜる。轟くような疾風怒濤。


その合図を置き去りにするように1陣の疾風が、まるで自身の影すらも置いて行くような速度で廃工場中を駆けた。

何かが爆ぜたかと勘違いするような爆音に割れかけの窓ガラスが突風に震えて共振、異音を散らしたかと思えば地面からは大量の砂埃が舞い上がる。助手が瞼を開けない程に、そしてまともに立っていられないほどの豪風の正体、それは物体が高速で通過する時に発生するソニックブーム。


正しくは音速を超えてはいないためそれに類似する空気の壁との衝突音とそれに付随する爆風だった。


人間の動体視力を超越した高速移動で部長が飛ぶように駆けまわり、7回短い悲鳴が上がると突風が嘘のように収まった、ガラスの共振やトタン製らしき壁がガタガタと揺れ動く騒音も先ほどまでのそれを嘘とするかのように沈黙する。

その間はわずかにまばたきを数回する程度の時間が過ぎた程度、


ようやく開く事の叶った助手の目が辺りを見回せば地面に転がって死屍累々といった様子の敵対者が映った。音を置き去りに……できそうな拳は瞬間的かつ正確に7人を捉え、数秒とかからずに見事全員を地面と接吻させていた。


部長の能力、それは『英雄』。音に比肩出来そうなほどの高速移動、電車に跳ねられても傷すら負わない超耐久、そして彼女自身がもともと持ち合わせている純粋無垢かつ正義感に溢れた心。

あらゆる生物を超越した、まさに超人と呼ぶに相応しい能力こそ彼女に備わったチューニ病だった。


(大丈夫だよな…?あたりどころ悪くて死んでたりしないよな?)


伏せ状態から起き上がり服についた砂を軽く叩きながら、助手は地面で伸びている哀れな復讐鬼7匹を眺める。

全員が電気ショックを浴びてビクビクと動くカエルのように痙攣しているのを確認すると、ホッと一息つきながら部長と目を合わせると、彼女はフグのように顔を膨らませてご立腹といった様子だった。


「心配なんてしなくても大丈夫、全員ちゃ〜んと峰打だって!

もう、キミはなんで幼馴染に対してイマイチ信用ってものがないのかな〜?!」

「いや、だって部長は割とうっかり屋さんだからに決まってるじゃないですか…

というか拳に峰はないでしょ…全く」


部長が峰打と呼んでいる技術、それは正確には勿論峰打ではなく高速で叩き込んだ拳を寸止めすることによって発生する空気の壁による拳圧を全員に叩き込むというもの。

実際に当ててこそいないが、超速で叩き込まれた高圧により事実上の面による一撃と化したそれは顔面に当てれば確実に脳震盪を起こす凶悪な攻撃だった。


といういつも通りのやり取りをしながら助手がウインドウにビーストテイマーと表示された不良に近づくと、胸ぐらを掴みあげて平手で顔面を数回殴打した。


「おいコラ、さっさと目を覚ますんですよこのバカタレが。

ブタ箱に打ち込む前にキリキリとミーちゃんの居場所と今回の犯行に至った経緯とか全部吐いてもらいますからね」

「じょ、助手クン?!いささか暴力的すぎるというか…ってその人の顔やばいよ!?元の大きさの3倍くらいまで腫れ上がって…ってお〜い?!聞いてる〜!!??」





<基本骨子>

英雄:部長の持つ能力であるが、あくまで他称である。

本来の名称は『身体強化』、しかし彼女の場合はその倍率が異常でありその結果音速に近いような速度で移動することが可能なほどのパワーやそれに耐えられるだけの耐久力が備わっている。しかし、反射神経や動体視力は強化されていないはずであり、つまり彼女はジェット機を8bitのコンピュータで操作しているようなものである。

彼女自身の類稀なる反射神経や反応速度、そして生来の優しさと溢れんばかりの善意こそ、彼女が英雄と呼称されるだけの人間であるという裏付けだろう。


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