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総じて:騙されやすい



「というか普通に考えて、助手君の能力抜きでここら一帯を探し回るのは骨だよ」

「でしょうね、さっきはちょっと意地悪しただけです」

「ははは、やっぱり君は性格が終わってるなあ」

「え、なにその唐突な毒舌。こっわ女子こっわ」


工場地帯のど真ん中、四方を見渡せば錆からわかる年季の入った巨大な煙突が黒く混ざった噴煙を撒き散らし、何が入っているのかよく分からない巨大なコンテナや稼働していないコンベアが点在している場所。そこで終始真顔で漫才の如きやり取りをしている男女二人組がいた。

男子の方は頭髪はボサボサであり、どこか気だるげで覇気が感じらず学生の割に高めの身長であるのにもかかわらず迫力のない所謂モヤシと呼ばれるような男で、女子の方は身長は小さいが、絵に描いたような天真爛漫な可愛らしい笑顔とセミロングの髪の束から頭頂部に一本天を突いている所謂アホ毛がぴょこぴょこ跳ねていてその小柄な体躯に秘められたエネルギーを感じる、無論部長と助手である。


あの後結局部長の駄々に負けた助手は重い腰を上げ、二人して学校から数キロほど離れた工場地帯に足を運んでいた。ちなみに駄々をこねてなかったとしてもリアルタイムで変動しうる猫の現在地を把握できるのが助手のみであるためなんだかんだ付いて来ていただろう。

憎まれ口が常態化しているが根は甘い、所謂ツンデレでもあるのだ。


助手が空中にマップを表示させ部長にもマップが視認できるようにウインドウを大きくする。

猫の居場所を示すピン表示と二人の現在地を示すピンは目と鼻の先という距離まで近づいていた。


「なるほど、どうやら猫はだいたい300m先の突き当たりの工場にいるみたいですね」

「ホント!?じゃあ早く助けてあげなきゃね!」


助手の言葉を聞くとすぐさま部長が勢い良く駆けだす。50mほど走った後に全く付いてきていない助手に気付き、踵を返して助手の手を掴んだ。


(あ゛っ、ちょっ、まっ」

「じゃあいっくよー!!」


咄嗟に言葉に詰まってしまった助手の背中に悪寒からくる嫌な汗が浮いた瞬間、グン! と急加速を感じると共に風圧によって目が開けられなくなる。

一陣の突風が工場地帯に吹き荒れる、否。それは高速で駆け抜ける人間によって引き起こされた人為的な突風であった。


端から見れば助手は引きずられているというよりは吹っ飛ばされてたと表現する方が正しいだろう、事実ダッシュ中にただの1度も助手の足は地面に付いていなかったのだから。まあそれも端から視認できるほどの動体視力があればという前提を要するのだが。


時間にして3秒も経たないうちにズザザザ!と地面を削る人力ブレーキ音と共に土煙が舞い上がり、風と化していた部長と付属品と化した助手が停止した。

二人の目の前には錆びれた5m大の閉じられたシャッターとそれに貼り付けられたkeep out!と記された警戒色で構成されたテープ、鉄板のパッチワークのような構造物にはめ込まれたガラスは全て砕け散っていて、その外壁にはお世辞にも上手いとは言えないグラフィティがいくつも描かれていた。


つまり、誰がどう見ても廃工場である。


「目的地にと〜ちゃ〜く!さ、行こっか!」

「…痛い…帰りたい」


部長は元気よく出入り口に掛けてあった金属チェーンをくぐり抜けると助手を横目に捉えながら工場の中へ向かっていく。

助手は馬鹿みたいな出力で引っ張られた代償としてジンジンと痛む肩と手首を摩りながらトボトボと部長に追従した。悲しいかな、ここで逃げるとまた市中引き回しごっこの餌食になると彼は学んでいるのだ。


二人は入り口の門に張り巡らされた錆びついた金属チェーンをくぐり抜ける。工場の敷地内は詳しく見れば見るほどに荒れていた。


十何年と前に撤退したのか所々の地面のコンクリートはひび割れていて、そこからは生命力のやたら強い雑草が顔を覗かせる。

廃工場というよりは大きな工場の車両庫だったのだろうか、工場地帯の建物にしては小さく一般建築にしては大きいといった様子で、四方をコンクリート塀と上部に有刺鉄線と堅く守っている割には大きな建物が中央に鎮座しているだけでコンベア後や大型貯蔵タンクの跡は見られなかった。


「さて、詳細検索:『ミーちゃん、子猫、アメリカンショートヘア、佐々木優花』…なるほど。

部長!やっぱり対象はこの建物の中にいるみたいです」

「そま?じゃあお邪魔しよっか」

「黒髪色白の元気っ子のくせに急にギャルにならないでください。

幸い入り口はチェーンで塞がれてるらしいですけど、経年劣化か何かでこの建物の裏側に人一人くらいなら通れる隙間ができてるらしいです、そっから侵入してパパッと依頼終わらせますよ」

「…ノリが悪いなあ〜。

了解、さっさと終わらせちゃおっかね」


助手はウインドウを部長が見える位置にスライドして移動させる。

指のスイングと連動してスライドしたそのウインドウには、検索記録『当該建物 侵入可能な場所』という文字列と二人の現在地を上から俯瞰したような形の図、そして縮小されてはじに寄せられている恐らくミーちゃんのバイタルデータだろう心音などのデータが確認出来る。

それを軽く見せながら助手と部長が建物の裏に回ると、確かに人一人くらいなら通れそうな壁面の穴があった。


…四つん這いになってようやく通れそうな穴が。


「…俺の能力の欠陥ですね。

知ろうとしたことしか知れないっていう」

「全知全能よりかはそっちの方が楽しいでしょ、通れるし問題ないって」


そう言いながら部長がスカートを押さえながら這い這いの体勢になり、かなり小さな隙間から工場内に侵入する。悲しいかな、彼女のボディはその小さな穴にフィットしてしまうような豊満ダイナマイツボディではなく、スットントンな運動性能特化ボディ、もちろんお色気担当はできなさそうである。

続けて助手が隙間を通る。

もやしとはいえ男子高校生、年齢の割に高い身長と鍛えて大分広くなった肩幅でちょっと隙間に痞えるんじゃないかとどこか期待していた助手だが、すんなり通れてしまい少し落ち込んだ。筋トレしても体格が良くならないのが彼の最近の悩みである。


(白でくまさん…幼すぎるでしょ)


低姿勢気味に侵入した際、助手は立ち位置が悪い部長のスカートの中を目視で確認できてしまったが、特になんという感情も浮かばなかった、というかどちらかといえば失笑気味である。

創作の幼馴染はやたらとくっつくが、普通だと幼馴染間の空気はこんな温度である。


改めて這い這い状態から立ち上がった二人が工場内を見渡す。


廃工場は大型の機材車やトラックを格納、整備していたらしく体育館の吹き抜けを思い起こすような高めに設定された2階建ての建物であり、何年も放置されていたためか階段や壁材などの至る所が錆びついていた。

まだかろうじて日中とはいえ日の光があまり差し込まず夏場で篭った空気を漂うホコリ臭さとカビ臭さ、オイルやグリスの臭いが隙間風で流れてきて二人の鼻を擽る。


コンクリートで舗装された地面には、経年劣化で割れたその隙間から芽生えたのっぽの雑草に覆われるように備え付けで解体できなかった中大型の様々な設備や撤収されなかった機材や工具がかなりの量転がっていた。

そしてそれらの機材や伸びきった雑草のせいで見渡すにしても必ず見えない死角となる部分ができるため、学校の体育館ほどの広さであるこの廃工場は一見して天然の迷路地味た様相を呈していた。


この廃工場と呼ぶには随分と雑多に物が転がっている風景に助手は若干の違和感を覚える。

しかし、若干警戒を強めた助手とは対照的に「うへえ…散らかり放題だね〜…」とのんきにそのまんまな感想を述べた部長は、気合を入れるために両手で自分の頬を2回軽く叩くとよし!と気合を入れて助手に話しかけた。


「さ〜て!にゃんこ捜索タイムだよ!」

「とはいえもう見つけてるようなもんですけどね」


肩を軽く回して張り切る部長くまさんパンツに助手は口を挟んだ、張り切ると”とんでもない事”になりかねないという先見の明が光るが、どちらかといえば経験則である。

『張り切った部長は湿度の高い女より面倒臭い』という取扱説明書①に書かれていそうな事実を熟知している助手、彼の生まれて事方の苦労が目にしみる。


(一切動いてないから場所を特定するのが楽でいいな…ん?)


違和感を覚えた助手が手元に展開してあるマップの子猫がいる場所を示すピンを注視する。助手の記憶が正しければ2時間近く前に部室で子猫の場所を特定した瞬間から詳細表示上の子猫は一切微動だにしていない。


(仮にも動物が2時間近く一切動いてないってどういう事だ?

生きてるのはバイタル確認してるからわかるが余計意味がわからないぞ…?)


冷静に考えれば考えるほど、助手の頭の中には違和感が大量に浮上した。

なぜ捜索対象の猫は2時間以上微動だにしていないのか、なぜ工場の裏手の隙間付近の雑草は全て踏まれた形跡があるのか。


繋がりそうで繋がらない点と点として現れた違和感が助手の額に1筋の汗をかかせるまでにそう時間はかからなかった。


「で助手君〜、ミーちゃんはこっちにいるんだよね?」

「部長…なんかおかしいかもしれないです」

「ん?

…ッ危ない!!」


助手が部長に警戒を告げて新たにウインドウを展開した瞬間、草むらと化していた助手の死角から風を切るような豪速で大量の工具が飛来した。

錆びついたドライバーやレンチが助手の体を貫く直前、とっさに合間に割り入った部長の拳によって弾かれたそれらの危険物は助手に対する直撃軌道を外れると、勢いをそのままに四方に飛んで消えた。


「ッ!?助かりました、部長」

「…今回の依頼、どうやら罠だったみたいだね」


部長のその言いように若干呆れを見せるような表情で助手がため息まじりに呟く。


「今回も、ですよ。

いい加減俺を通さないで依頼受けるのやめてもらっていいですか?」


部長はその場で下手くそな口笛を吹いた、なんとも古典的でそして露骨である。




<基本骨子>

チューニ病部:部長が設立した部活動。

彼女の自身の能力を社会貢献に使用したいという切な願いを(半ば強制的に)聞いた助手が(これまた半ば強制的に)教師に直談判し、すでに形骸化していた法令を盾に無理やり設立させた部活。

とはいえかなり学校内外含めて評判は良いようで雑用やボランティア活動などに従事しているため、現在では何でも屋のような立ち位置である。

しかし、この社会においては一歩踏み外しただけで異能力トラブルに発展することがあり、部長がうっかり善意で首を突っ込んだら予想よりも深刻な刑事事件に巻き込まれてしまったりしている。


なお、部長と呼称してこそいるが彼ら彼女らは同年同月同日に生まれた所謂幼馴染であり、面倒ごとを嫌った助手が部長を押し付けただけに過ぎない。

なんなら2人は同級生だし同じクラスに所属しているぞ。


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