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最終話 キミが、いつか望んだ場所

 ふと、思い返すことがある。

 国のために命を捧げたアイツが望んだものは、なんだったのだろうかと。

 時折、遠い目で城の方を見ては寂しそうな表情をしていた親友の横顔を、俺はてっきり自分よりも国のために結婚した主への未練かと思い込んでいた。

 そのたびに女遊びに誘ってはエリザやシャルにぶん殴られていたっけ。

 本当は戦いよりも花を愛で、お菓子を作るのが好きだったあいつが求めていたものは――穏やかな時間だったんだろう。

 こうして花畑の中心で笑っているセシルの顔を見ると、そう思うようになった。


「セシル」

「ん? ギュリヴェールも食べたい?」


 クッキーをもぐついているセシルが俺に尋ねる。

 返事を待たずに、俺はぱくっと一枚クッキーを食べた。

 さくさくっとした食感の甘い味が口の中に広がった。


「行儀悪いなぁ。ほら、お茶」

「ん、さんきゅ。今日もかわいいなぁお前」

「ちょっと、わたくしのセシルを口説かないでくれませんか?」

「私のセシルにエッチなことしたらダメだからね!」

「しませんって。俺が奪うのはクッキーだけですよ」


 ひょいっとお皿に乗ったクッキーを奪うと、セリーヌ嬢とリュディヴィーヌ様が声を揃えて「「あああー!」」と声を上げた。


「うるさいわね。静かにしなさいよ」

「コレット、何読んでるの?」

「『仮面の騎士と輝きの剣』の最新刊」

「うえっ!? その本、まだ続き出てたの!?」

「大人気シリーズなのよ? 今作はいつにも増して良かったわ……仮面の騎士様が、政略結婚させられそうになる姫の結婚式に現れて、結婚相手とその場で決闘。見事勝利して花嫁を奪っていくのよ」

「あらすじに心当たりがありすぎる!」


 セシルが顔を赤くしながら叫んだ。

 そりゃそうだろうなぁ。あれ、ロランの話を面白おかしく脚色した奴だもんな。

 俺も一度読んで腹を抱えて笑った。勿論、その最新刊も読破済みだ。

 ウィルフレッド皇子も笑っていたしな。今度セシルと会う時に茶化せると嬉しそうだった。

 ……そういや、この本の作者って誰なんだろうな? やけに詳しくロランのことを書いてあるし、相当近しい人間だろうけど。


「大人気。あたし、手に入れるのにリュディヴィーヌ様の伝手を頼ったし」

「えへへ、私は簡単に手に入れられるからね」

「な、なんでですか?」

「んー? だって、その本の作者、お母さまだもん」

「……えっ!?」


 セシルが絶句する。

 ああ、やっぱりそうなのか……ロランが剣を拝領したところのセリフとかまんまだったから薄々そうじゃないかと思ってた。

 となると――リュミエール様はきっと理想の展開を夢想しながらあの本を書いてたのかもしれない。

 仮面の騎士と愛し合う人が幸せになることを夢見て。


「仮面の騎士と姫が結ばれるんだもんね。えへへ、つまり、姫の私とセシルは幸せになるってこと!」

「だが、仮面の騎士は男性で姫は女性だろう? その理屈なら、セシルと結ばれるのは僕になるな」


 ギルバート皇子がバラの花束を抱えて歩いてきた。

 それだけでセシルは顔を赤くし、他の女性陣は顔をしかめた。

 最近のギルバート様は何か吹っ切れたのか、ストレートにセシルを口説き始めたからな。毎日バラの花束を持ってきたあの甘いマスク相手に「愛している、結婚して欲しい」と言われたらきっと男でも堕ちるだろう。

 そのせいでセシルは最近、赤面癖が悪化したらしく、俺が不意打ちで手を握ってやっても耳を真っ赤にするようになった。それが可愛くてついやりすぎるとタンコブが出来るまでぶん殴られるんだけど。


「あ、あの、ギルバート様、その」

「大丈夫。飾る花瓶も持ってきた。さあ、受け取ってくれ」

「は、はいぃ……」


 耳まで真っ赤にして俯くセシルを見て、ギルバート様は満足そうに微笑んだ。

 ちなみにギルバート様に口説き文句を教えてるのは俺だ。


「お、お茶、お茶にしましょうっ」

「あら、セシル。頬にクッキーの欠片がついてるわよ」

「ふぇ? ど、どこ? 恥ずかしいから取って」

「分かった。ん」


 それに負けじと、セリーヌ嬢がセシルの頬に口づけた。クッキーの欠片はついてなかった。


「せ、セリーヌちゃんっ」

「こっちにもついてるよーっ、ちゅっ」

「ああああ、リュディヴィーヌ様まで、もうやめてくださいよ!」


 恥ずかしさの限界に達したのだろう。席を立って逃げだしたセシルの姿を皆が……コレットまでもが、微笑まし気に見守っていた。

 俺はゆっくりその背中を追いかける。

 白い花が咲く花壇の前で蹲り、頬を押さえて「うーーーー」っと唸っているセシルの隣に、俺は座った。


「なぁ、親友」

「……なに?」

「お前は今、幸せか?」


 俺の突然の問いに、セシルは顔を赤くしたままこっちを見る。

 そして、とても優しい微笑みを浮かべて、


「うん。とっても」


 そう、言った。


「そっか。良かったな」

「変なギュリヴェール」


 くすっと笑うその表情に、俺の胸が高鳴る。

 ああ、俺はこいつのことが好きだ。自分のものにならなくてもいいから――幸せでいて欲しい。


「お前、昔から花好きだったよな。任務が終わったり、遠征から帰ったら……この白い花を良く見てた」

「そうだね。こうして花を見ながらゆっくり過ごしたいと思ってたよ」

「そっか。ところでよ、この花の名前、なんていうんだ?」

「なんだ、知らないの?」


 そっと小さな花を指で撫でながら、皆を愛し、それ以上に愛される彼女は、得意そうな顔で教えてくれる。


「サザンクロスって言うんだよ」


                       終わり

 これで、セシルの物語はおしまいになります。

 最終話まで書ききれたのは、皆さまの応援のお陰です。

 評価・お気に入り登録・感想をくださった読者の方々のお陰で楽しく書くことが出来ました。


 サザンクロスの花言葉は『願いを叶えて』だそうです。

 セシルの願いは、皆さまの応援のお陰で叶えられました。

 幾万の感謝を皆様に。本当に感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。


 次回作も投稿予定ですので、そちらの作品も応援して貰えたら嬉しいです。是非読んでみてくださいね!

 それでは、また次回作でお会いしましょう! あ・とれびあーんと!

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様です 素敵な作品をありがとうございました 何回も見返してしまうほど好きな作品なので終わってしまうのかという悲しさと良い話だったなぁ、という満足感で満たされています セシルは生…
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