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ボクっ娘座談会 その1

 輝剣祭が近づき、王立学園内はにわかに騒がしくなってきた。

 と言っても、ほとんどの生徒はいつも通りの学園生活を送っている。開催されればそれを楽しむんだろうけど、自分達が何か出し物をしたりなんてことはしないから準備をしなくて良いのだ。

 そして、その『ほとんど』に属さないのが繚乱会だ。ギルバート様が提案した女王陛下を招いてのお茶会に向けて、色んな準備があるから忙しいんだよね。

 セリーヌ様は実家に手紙を書いてアンティークの家具を取り寄せたりしてるし、コレット様とロシーユ様は二人でどんな花をテーブルに飾り、どこにテーブルを設置するかという相談をしている。

 ギルバート様とリュディヴィーヌ様はお出しするお茶やお菓子を考えているみたいだし、最近の繚乱会はピリッとした空気に包まれていて、空気が少し重たい。

 そんな中、ボクはといえば、

 

「はい。どうぞセシル」

「あ、ありがとうございます」

「いいんだよ。話をしたいって誘ったのは、ぼくだからね」


 シャルと学園に設置された輝剣騎士隊クラウ・ソラスの休憩場で、お茶をしていた。

 セリーヌ様が繚乱会で考え事をしていたから、これ幸いとアスランベクに護衛を任せて散歩に出た所で、シャルにばったり出くわしたのだ。

 一緒に休憩でもどうかなって誘われて嬉しかったなぁ。

 ほくほくしながら、ボクはハーブティーを飲む。

 

「実は、セシルと話しておきたいことがあってね」

「ボクと、ですか? ……それってもしかして、アスランベクのことだったりします?」

「正解。アスランベクの子供なんだって?」

「ぅ。……まあ、そう、みたいですね」


 やっぱりその話だよね。

 全くアスランベクのやつ。ホントめちゃくちゃな嘘吐いてくれたよ。誤魔化すこっちの身になれっていうんだ。

 ……まあ、ボクもギュリヴェールに無茶な丸投げしてたような気もするけどさ。

 

「驚いたけど、納得もしたんだよね。ほら、初対面の時、セシルがアスランベクを呼び捨てにしてぼくが注意したことがあったでしょ?」

「あ、あー。そうでしたね」

「身内なら呼び捨てしても当然だなって思って。それに、話しやすかったのも同僚と似た雰囲気を感じ取ってたのかも」

「あ、あはは。そうかもしれないですね」


 ある意味嘘じゃないというか何というか。良い勘してるなぁ、シャル。

 多分話しやすかったのはボクがロランの生まれ変わりだからだったんだろうけど、確かに同僚だったと言えるし。

 

「きっとそうだよ。だから嬉しかったんだよね。歳は離れてるけど、こうやって気軽に話せる友人が出来たのは凄く有難いことだしね」

「そうですね……ボクもそう思います」

「でしょ」


 にっこりと笑って、シャルがカップを置く。

 

「もう一つ聞いてもいいかな?」

「はい。なんでしょう?」

「アスランベクの子供ってことは、セシルは戦えるの?」

「え……?」

「アスランベクは輝剣騎士隊クラウ・ソラスを長年支えてきた、いわば天才なんだ。今は流石に肉体的な衰えを隠せないけれど、若い頃はそりゃもう凄かった。あの英雄……ロランの師匠であり、義父でもあった男だからね」

「そ、そうでしたね……」

「うん。そして、君は実娘だ。いわば、ロランの義兄妹のようなものになるよね?」


 い、言われてみればそうなるのか。

 あ、あ、アスランベクめぇ……! お陰でロランとボクにめちゃくちゃ関係性が産まれてるじゃないか! いや実際生まれ変わりだから関係はあるんだけどさ!

 

「そ、そうなり、ますね?」

「だったら――やっぱり、セシルも強いのかなって思って、気になったんだ」

「ちなみに、仮に、ですけど……もしもそうなら、どうするんですか……?」

「ん? スカウトするよ勿論。セシルが輝剣騎士隊クラウ・ソラスに来てくれたら嬉しいからね」

「き、気持ちは嬉しいんですけど、仮に強くてもボクはセリーヌ様のメイドですから」

「今は、ね」

「今は……?」

「うん」


 シャルはボクの目をじっと見つめてくる。

 

「人には人の相応しい立ち位置があって、結局そこに落ち着くんだって、ぼくはそう思ってる。もしもセシルが強いなら、いずれメイドではなく、騎士になることになると思うよ」


 その言葉は、何故かやけに強く印象に残った。

 相応しい立ち位置、か。

 じゃあ――一度死んで生まれ変わったボクに相応しい場所って、どこなんだろう?

 

「それにさ、セリーヌ様はギルバート様と結婚するんだろう? その時、セシルはどうするんだい?」

「着いていくつもり、でしたけど……」

「でもセシルは厳密にいえばフィッツロイ家のメイドでしょ? セリーヌ様に付いていくためには、それを辞めて王国のメイドにならなければいけないけれど」

「た、たしかに……言われてみればそう、ですね」

「気付いてなかったんだね」


 ふふっ、とシャルが笑う。

 完ッ全にセリーヌ様についていくだけでいいって思ってた。そういえばボク、王城の使用人のことを調べたことなんか無かったなぁ。

 

「ちなみに、どうすればなれるんですか? 王城付きの使用人って」

「採用試験で合格しなければいけないんだよ」

「ふぇ!? そうなんですか!?」

「うん。外国からの要人をもてなすことも多いからね。使用人でも、色んな外国のマナーやしきたりを知っていなければならないんだ。ボク達にとっては何気ない行動が、他の国では失礼な行動だったりするかもしれないからね、それだけで交渉や話し合いがご破算になるかもしれないって考えると当然じゃないかな」


 うぐ。それはそうなんだけど。そんな知識皆無だし……。

 今から勉強して間に合うかなぁ。うぅ、意外な落とし穴だ。

 

「ただ傍に居たいだけなら、騎士でも問題ないと思うよ? どうかな。一度剣を振ってみるっていうのは」

「もぉ、どうしてそんなに騎士にさせようとするんですか?」

「そうだね……きっとぼくは――大好きだった人を、どうしても求めてるんだろうね」

「え……?」

「君がアスランベクの娘……そう聞いてやけに納得したんだ。ぼくの好きだった人は、アスランベクの息子でね。……出会った時に言ったこと、覚えてるかな? ぼくのことを綺麗だって言ってくれた人が居たって。それがその人だったんだ」

 

 え。

 ……ええー!?

 しゃ、シャルって、ロランのことが好きだったの!?

 

「死んでしまったけれど、今でも想ってる。セシルはその人に似ていて……って。どうしたんだい? 顔が真っ赤だよ?」

「い、いえ……っ、そのっ」

「……もしかして、恋愛の話だからかな? セシルって初心なんだね?」


 シャルがくすくすと笑う。

 それは否定しないけど、突然の告白で照れたのも大いにある。いや、ボクはもうロランじゃないんだけどね? それでもやっぱり好きだったって言われると照れてしまう訳で。

 全然気付かなかったなぁ。でも、確かにずっと傍に居てくれたっけ。あれはそういうことだったんだね。

 ……だとしたら、きっと、ロランが死んだことでシャルは凄く傷ついたんだろう。

 あの時は皆が生きてくれれば、自分はどうなっても良い……そう思っていたけど、自分が居なくなることで人を傷つけるということは考えてもいなかった。

 ギュリヴェールもアスランベクもシャルも、ロランが居なくなったことで傷ついた。その後の生き方が変わってしまうくらいに。

 

「……ロラン様も……」

「ん……?」

「ロラン様も、シャルロッテ様のことを……大切に想っていたと思いますよ」

「――……セシルが言うと、なんだかそうだったんだろうなって思えるよ。ありがとう」


 シャルが笑顔を浮かべる。

 大丈夫。本当にそうだから。

 

「まぁ、そういう訳で、気が向いたらぼくと剣術をやってみないかい? 騎士になるんだったら、ぼくが稽古を付けてあげるよ。そうすればセリーヌ様の傍に居続けられると思うし」

「それって、使用人試験と勉強するのと変わらないじゃないですか」

「うーん、そうかなぁ。アスランベクの娘なら素質はあると思うし……こうしてみていても、セシルの身のこなしっていうのかな。立ち振る舞いとか身体のバランスの良さとか、向いてると思うんだけどね」


 流石シャルだ。鋭いなぁ。


「あ、お茶のおかわり要ります?」

「露骨に話を逸らすね? でも、貰おうかな」


 シャルにお茶を注ぎながら、ボクはさっきシャルに言われたことを思い出す。

 もしも本当に相応しい立ち位置に立つことになるというのなら、こうして前世の記憶を持って生まれ変わったことには意味があるってことになるのかな。

 その後、ボクはゆっくりとシャルと他愛のないことを話し続け、すっかり日が暮れてから部屋を後にしたことでセリーヌ様に激怒されたのだった。ぐすん。



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