学割で30%オフ
一万円札が3枚入った財布を丁寧にバックにしまう。学割で30%オフになるらしいから、学生証も忘れないようにする。
雑居ビルの狭い階段を上る。一段一段が高くて、少しでもスペースを節約しようという意図を感じる。
「あの、予約した海田美明なんですけど」
受付に座る女性は整形をしているのだろうか。眼科の先生が眼鏡をしているのと同じで、整形をしている人が美容形成外科になるのかもしれない。
「はい。お名前をお呼びしますので、椅子におかけになってお待ちください」
私は緊張していた。ツイッターを見ても、インスタを開いていても、ジェムスとの音楽を聞いていても、何も頭に入ってこない。
「海田さん」
受付の奥から、透き通った声が聞こえる。
私は立ち上がった。青い革製の椅子に座る。眼鏡をかけた優しそうな先生だ。高校生の私を珍しいような目で見ることもない。
「えー、二重の手術ね」
ただのお客さんとして見ているのに安心する。そうだ。先生にとって、私という存在は日常業務の一つなのだ。
「はい」
私は首を大きく振って答えた。
「1週間くらい腫れて、違和感を覚えるかもしれないけど、15分もあればできちゃうよ」
私はただ頷いた。すべて任せればいい。
「それともまた別日にする?」
「あ、今日で。お願いします」
わかりました、と先生は立ち上がった。学校の心配のことなど頭にない様子だ。
「じゃあそっちに寝てもらって」
私の瞼に細い糸が通るらしい。