そう、岩橋はかっこいいのだ
「なぁ、次なんだっけ?」
隣の席の岩橋が言った。岩橋は野球部の副部長で人気者だ。たっぷりと日光を浴びた肌は、こんがりと焼けていて、アイスティーのような色をしている。
「現文」
私は短く答えた。
「現代文か。サンキュー」
岩橋は「代」を略さない。そのくせに英語表現は「えいひょー」と略す。どっちかに揃えろよ、と私はいつも思う。
男子って何で下ネタが好きなんだろう。岩橋は心底幸せそうに、昨日見たAVの話をしている。
私だって好きな韓流アイドルに彼女がいるかどうかくらいは気になるけど、奴らみたいに楽しそうには話せないと思う。
と、ひとしきり思考してみるけど、結論はいつも同じだ。
格好いい。
そう。岩橋は格好いいのだ。キリッと上がる眉毛、深く刻まれた涙袋、血管の浮き上がった腕。パーツの一つ一つが、「美形」という共通の答えを目指して一枚岩になっている。
岩橋が遠くに行く。けど、声が大きいから教室の90パーセントの人に聞こえている。
「未来華((みらか)ヒカリってめっちゃエロくない?」
「こいつ昨日教えた奴早速見てるよ」
「いや、寝ずに見たからね」
「寝ろ! この変態野郎!」
やめろよ、と岩橋の周りの男子が逃げている。どうやら岩橋の手がイカ臭いらしい。私は、持ち込み禁止のスマホを取り出し「みらかひかり」とメモをした。