ちなみに私は圏外だ
男の目線はすぐにわかる。顔、胸、おしり、足。一人ひとりを品定めするような視線を送ったあと、すぐに手元のスマホに意識を戻す。本人たちは気づかれていないと思っているようだが、そんなのはバレバレだ。
ちなみに私は圏外だ。顔はもちろんのこと、胸だって突き出ていないし、お尻だって魅力的じゃない。顔さえ良ければ私だって品定めされるかもしれない、と電車の中で思う。
学校は更にシビアだ。サッカー部のキャプテンは、学年一可愛い人と付き合っているし、テニス部のイケメンは、女子テニス部のうるさい子と付き合っている。
顔、ステータス。その人と歩いていて恥ずかしくないか。そんなものさしばかりが充満している学校は、本当にバカらしい。でも、そんな風に思うのは、きっと自分がブスだからだ。どこの誰であっても「甘酸っぱい青春を送りたい」と願っているに違いない。
美明は荷物を置き「おはよう」と話しかけた。眼鏡をかけて、おどおどした恵美は、私と同じイケてないグループ、通称陰キャの一人だ。
恵まれた美。うちの両親と気が合いそうだ。美しい、と名付けることにどうして慎重になれなかったんだろう。それとも名付ければ、美しく育つと本気で思っていたのだろうか。
「美明さ『ジェムスト』見た?」
『ジェムストーンズ』。通称『ジェムスト』は、アイドルのオーディション番組で、ゆるふわ系のイケメンたちが、デビューを賭けてダンスや歌を乗り越えていくという内容だ。
「見たに決まってんじゃん。でも推しのソジュンが少なめだったかな」
「ほんとキム君好きだよね」
恵美はソジュンのことをキムと呼ぶ。韓国の番組だから、キムさんはたくさんいるのに、キムと呼ぶ。私はそれにいつも引っかかる。
「昨日調べてたらさ、ゾジュン整形してるらしいよ」
美明は、昨日見かけた情報を何気なく流す。
「嘘!」
「本当だよ。鼻を高くしてるみたい」
ほら、と学生時代との比較写真を恵美に見せる。ネット上で誰かが作った画像はあっという間に広がっていく。
「ホントだ。整形は無いわ」
そう言って恵美は一時間目の古典の用意をした。
「でも、韓国では美容整形は普通って聞くよ」
「だとしても作られた格好良さは好きじゃない」
整形しないと私達に未来は無いよ、と美明は心の中でつぶやいた。