一度も痴漢をされたことのない電車で
整形したい。美明は鏡を見るたびに思う。のっぺりとした鼻、分厚い一重まぶた、チリチリとした前髪。
自分の顔のすべてが美人とは正反対に作られている気がする。もし、顔を決める神様がいるならば、ボコボコにして海に沈めてやりたい。
それよりもムカつくのが、美明という名前だ。小学校のときに、自分の名前の由来を親に聞くという課題があった。「私の名前の由来って何?」と聞くと、「美しくて、明るい女の子に育ってほしいから名付けたのよ」と返された。
予想通りだった。できれば別の由来であってほしいと願っていた。なぜなら、私は、美しくもないし、明るくもないからだ。
いっそ、未暗にでも改名したい。未だに暗い。私にピッタリの名前だと思う。そう思ったところで、私には改名する勇気なんてない。
臆病なのだ。ブスなら愛想よくするのが最低限のマナーだと私は思う。その場にいさせてくれてありがとう、って空気を良くしないといけないのに、黙り込んでしまう。ブスで無愛想で気を使われるって、最低の三拍子じゃないか。
と、ひとしきり考えを巡らせたあと、学校に向かう。鏡を見るだけでこれだけ疲れるのだ。この忌々しい顔。
顔さえ良ければな。
そう思いながら、美明は一度も痴漢をされたことのない電車に乗り込む。