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新・勇者  作者: KAWADA
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第二話 影獣とカワウソ

翌日。


「カイル! 僕も迷宮に連れてってよ!」

「すまんな。迷宮は本当に危険なんだ。戻ったらいっぱい話を聞かせてやるから村長と待っててくれ」

「え~! ケチ!!」


カイルたちは村の外れにある全5層の小さな迷宮へと向かっていった。

日ごろから1,2層は村の男たちも探索しているので、カイルたちの実力を考えれば数時間で制覇してくるであろうと思われた。



「じいちゃん、川のほうに薬草取りに行ってくるね!」

「ああ、気を付けるんだよ。あまり遠くに行ってはいけないよ」

「わかった!」


トールの祖母のイリアが病気であまり動けなくなってからは、トールやロベルトが川の近くにある薬草地帯へ必要な分の薬草を取りに行っている。

普段からこの村の近辺は小型の野生動物が出るくらいで子供だけでの外出に対する危機感は薄い。



「はあ……僕も迷宮行きたかったなあ」


小さな迷宮といっても危険な場所であることには変わりないのでトールはまだ入ったことがなかった。

有名な冒険家ならもしかしたら連れて行ってくれるかもと期待していたトールは当てが外れて落ち込んでいた。


「また次頼んでみよう。それよりも今は薬草取ってこなくちゃ!」



「これでよし!」


薬草を集め終わったトールは川の中をのぞいていた。


「うーん、今日はカワウソいないなあ。いつも僕が来ると近寄ってくるのにな……」


いつもトールが薬草に来ると近寄ってきていたカワウソが来ないことに違和感を抱きながらも帰ろうとする。


ドシンッ ドシンッ


聞いたことのない響きに青ざめて立ちすくむトール。

少し離れた木の裏には隠し切れない巨体がのぞいている。


「え、影獣だ……なんでこんなところに……」


この世界では時々、黒い靄のような影から影獣と呼ばれるモンスターが現れることがある。

迷宮内に現れるモンスターは迷獣と呼ばれ区別されている。

影獣も迷獣も倒すとコアと呼ばれるエネルギーの塊のようなものが残る。

影獣はコア以外にオーブと呼ばれる物が残ることがあるが迷獣はボス以外オーブを落とすことはない。

代わりに迷獣は食料や鉱石、ごく稀にオーパーツと呼ばれるアイテムを落とすことがあるため、人類の生活に欠かせないものとなっている。


「に、逃げなきゃ……」


しかし足がすくんで動けない。

森から出てきた二足歩行の影獣・オーガはトールの事情はお構いなしに向かってくる。


「だ、だれか……助けて……」


後ずさりながら助けを求めるが周りには誰もいない。

ついに目に前まで来たオーガの腕が咆哮とともに振り下ろされる。


「うわああああああ!」


振り下ろされる腕の前になにかが現れ、そのなにかとともに吹き飛ばされるトール。


「痛たた……えっ……」


横には血まみれで倒れ伏すカワウソの姿。

いつも薬草を取りに行くと近寄ってくるカワウソだった。


「お前……どうして……」

「グオオオオオオッ!」


再び近寄ってくるオーガの咆哮に思考は遮られる。

足が動くようになったトールは血まみれのカワウソを抱えて走り出す。


「絶対助けるからな……死ぬなよ……」


しかし子供の足では逃げ切ることはできない。

徐々に追い詰められ川岸に追い込まれてしまう。


「くそっ。このままじゃ……」

「グオオオオオオオッ!」


再び振り下ろされるオーガの腕。


キイィィィン!!


「ふぅ……無事でよかったよトール」

「か、カイル……」

「遅くなって悪かったな。今倒すから少し待っていろ」


倒すと宣言したカイルが一本の剣を構えると赤いオーラが迸る。


「グオオオオオオオ!」

「影迷流・一色斬り」


スパンッッ!


上半身と下半身が真っ二つになり、黒い影となり消えていくオーガ。

影が消え去った後にはゴルフボール大のコアと野球ボールほどのオーブが残されていた。


「大丈夫か、トール」

「う、うん、ありがとう。だけどカワウソが……」


血を大量に流し、いつ死んでもおかしくない状態のカワウソ。

カワウソがトールをかばい、時間を稼いでくれたおかげでカイルが間に合い、助かったことを説明するトール。


「そうか。じゃあこのオーブを使え」

「オーブ?」

「ああ、オーブは基本的に1つの命に1つしか使用できないが、その分、体を作り替えるほどの変化が起きるんだ。だからもしかしたらそのカワウソも生きることが出来るかもしれない」


オーブとは生命体の能力を拡張する不思議な玉であり、なぜ影獣やボスの迷獣から出てくるかはわかっていない。

オーブを割ったときに一番近くにいる意志ある生命体に適応される。

特殊なアイテムや能力がない限り、どの能力がどのように拡張(発現)するかはオーブを割るまではわからない。

稀に身につけた能力がわからぬまま一生を終える人もいる。


「ありがとう!」


オーブが割れるとともに影がカワウソを覆いつくす。

心配して見守る中、影が晴れていく。

影がなくなったとき傷も血もなくなり、きれいな状態のカワウソが残されていた。


「カワウソ!!」


その後一命をとりとめたカワウソは眠ってしまったトールとともにカイルに運ばれていく。

途中で仲間たちと合流したカイルたちは、そのまま村への帰途についた。


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