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5 入学式はスキップされがち

「色々と検査しましたが脳に異常は見られませんでした。一応、数日間は体調に気を遣って何か少しでも異変を感じたら病院にいらしてくださいね」


 到着した救急車によって螢は病院に搬送され、仰々しい機械を用いた精密検査を受けさせられた。診察が終わった時にはとっくのとうに入学式も終了していた。保護者代理として連絡を受けて慌てて駆け付けた揚羽と共に病院を後にした。


 クッソ、栞の奴も冷たいよな。俺を置いて入学式に出席するとは。血も涙もない奴だ。何が「この説明をか弱い乙女である私にさせるんですか? 一種のセクハラですよ。セクハラ」だよ。警察への説明も全部俺に押し付けやがって。


 螢は全身から不機嫌なオーラを醸し出す。


「入学初日からすっごい災難だったね~。しょうがない。可哀想な螢の好きな物を何でも作ってあげよう」


 揚羽の一言で螢の負のオーラはたちまちに浄化された。


「ならハンバーグが良いっ」


 螢は間髪入れずに即答する。


 揚羽姉さんの作るハンバーグは絶品だ。フォークを差し込むと閉じ込められた肉汁が一気に溢れ出す。そして口に入れると肉の旨味と調合されたスパイスの香りと風味が爆発する。それに何と言っても揚羽姉さんの綺麗な手で一生懸命捏ねられたハンバーグなのだ。その事実だけでご飯が三杯はいける。


「オッケー! 今日は腕によりをかけたスペシャルバージョンを作ってあげよう。お腹を空かせて待っててね」


「じゃあ買い物に」


「大丈夫ッ。ケイ君ならそう言うと思って既に買い物済ませてきちゃった」


 揚羽姉さんは満面の笑みを浮かべて得意げに胸を張った。その大きな胸がたゆんと揺れる。


 駄目だ。可愛すぎる。というかやっぱり揚羽姉さんには敵わないな。じゃなくて俺は揚羽姉さんから卒業しなくて……もいいか。もう少しだけ。今この瞬間を楽しみたい。


 螢は羽のように軽い足取りで帰路に着くのだった。








「というわけで入学式では何の成果も得られませんでした。というか入学式に出ることすらできませんでした」


 受話器の向こうで有馬女史のため息を吐く声が聞こえてきた。


「何を馬鹿なことを言ってるの。大収穫じゃない。話を聞いてる限り運命的な出会いを果たように聞こえるのだけれど」


「ラブドールと運命の出会いを果たしてどうしろっていうんですか!」


「そっちじゃないわよ」


「全裸の筋肉マッチョの変態は守備範囲が——」「栞という子よ。話を聞いてる限り息ピッタリという感じだしお似合いじゃない」


「それだけは絶対にないです。そもそも栞には彼氏がいますし」


 一緒にプリクラを撮っていたイケメンの顔を思い出す。顔面偏差値だけで言えばハーバード大学クラス。世界を狙える顔をしていた。対してこちらは凡庸な天然パーマのもじゃもじゃ頭、スペックが違い過ぎる。というかそもそも栞のことは好きではない。


「略奪すればいいだけじゃない」


「それするくらいなら揚羽姉さんを頑張りますよ!」


「それは無理だから諦めなさい」


「……そんなにハッキリ言わなくても」


「現実を突きつけるのも優しさよ」


「分かってます……。大体、学校生活はまだ始まってすらないんですから。出遅れはしましたが俺の可能性は無限大」


「そうね。それに考え方によっては入学式に参加をしなかったというのは大きなアドバンテージとも取れるわ」


「どういうことですか」


「他の人に比べて話す切っ掛けと話題を作りやすいのよ。初対面の人と話すときに大きな障害になるのは切っ掛けと話題。でも螢君はその両方を持っているわ」


「そうか。昨日、休んでいたんだけど何をしたのか教えてって話しかけられますね」


「それにどうして休んだかという話になった時にインパクトのある面白い話を持っているというのもポイントが高いわね」


「なるほど。行けそうな気がしてきました」


「なら良かったわ。死に物狂いで頑張りなさい。早くリア充になって貰って、池谷万理華の新境地たる小説を書いて貰わないと私も困るのよね。それでは」


 螢が何かを言おうとした時には既に電話を切られていた。


ここまでよんでいただきありがとうございました。

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