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宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
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7.約束の場所、うてな。

 できれば苦しまず! さくっと死にたい! 


 恐怖で汗をだらだら流しながらその時を待つ。

 ふぉっ、と風圧に伴う粉塵が体にぶつかってきたかと思うと、みしぃ、と体の横で地面が音を立てて歪んだ。


【ぎゃあああああああああああ!】


「ぎゃあああああああああああ!」


 巨大な質量を思って気を失いそうなほどの恐怖に襲われる。


 お父さんお母さん! 先立つ不幸をお許しください! ……ていうかもう先立っちゃってるんだけど!


 死を目前に、ものすごい勢いでものすごい無駄なことを考えていると、ふ、と質量が遠のいた気がした。


「え」


 そろ、と片目を開けてみる。

 迫っているはずの鬼の姿が見えなくて、俺は両目を見開いた。


「あ、あら……?」


 自体を把握しようと体を起こす。


「れ え え え え え ?」


 声を頼りに周囲を確認すると、俺を通り過ぎて遠ざかって行く鬼の後ろ姿が見えた。


 のろますぎて急に視界から消えた俺を見失ったらしい。


「た、助かったー……」


【馬鹿でよかったー……】


 それぞれに安堵の言葉を漏らしてから、俺は疲れ切った体をその場に横たえた。


【言い忘れてたんだけど、ここでは死者も死ぬよ。ただ、死んでもしばらくすると所定の場所で目が覚めて、結局続きをこなさなくちゃいけないんだけどね】


「え、復活するの?」


 なんだ。それなら何もこんなに必死こいて逃げることもなかったのか。


 何度でもやり直せるならゲームと同じだ。

 安心して脱力すると、【水を差すようだけど】と文字が続けた。


【死者でも痛みや苦しみは感じるし、怪我も普通にするから。死が終わりでない分、タチが悪いかもしれないよ。ぎゅーって握り潰されたら、ぎゃーってなるよ。ぐちゃっ、ぷちってされたら痛いよ、絶対】


 文字の言葉に再び肝が冷える。


 表現が安直なだけに、想像すると……うう。


 注射針ですら未だに泣きべそをかけるほど痛がりの俺としては、痛いのは可能な限り回避していきたい。


「やっぱり全力疾走は必須かぁ」


 急に走ったせいで悲鳴を上げている筋肉を休めながら、そういえば、と俺は文字に尋ねた。


「目が覚める『所定の場所』っていうのは?」


【えーっとね。各地にセーブポイントがあるって考えてもらえばいいかな。一回死ぬごとにそこに戻る。ちなみにこの『闇の荒野』はセーブポイントがないから、ここで死んだらもう一度日本語選択の所からね】


「ええっ」


 それは面倒臭い。


「セーブポイントかー。なんか所々RPGっぽいんだよな」


【分かりやすい言葉を選んで説明してんのっ。記録地点とか、復活地点とか、人によって説明は変わる。おれ達はそこを『うてな』って呼んでるけど】


「うてな?」


 繰り返した俺に、文字が説明してくれる。


【うてなは『台』って書いて、本来は辺りをよく見るために建てられた高殿の意味を持つんだ。仏様の座る蓮の形をした台のことをうてなって呼ぶこともある。いずれにしてもこの世界では『ポイント』、特に『約束の場所』としての意味が強いかな。生き返る場所が決まって高台ってわけじゃない】


「ふうん」


 とにかく復活できる場所ってところね、と要約解釈していると、どこか不満そうな速度で文字が【あのさ】の三文字を打ち出してきた。


【生き返るなら死んでもいっか。って思ってるかもしれないけど、うてなに戻されたらそこまで積み上げたものは無かったことになるんだからね】


「ん? うん」


 セーブポイントとはそういうものだ。セーブポイントより前に戻ることはないが、その後積み上げた行程はもう一度やり直さなくてはならない。


 何が問題なのか分からずに相槌を打つと、【だからさ】と文字が苛立ったように活字を組み上げた。


【だから、今死んじゃったら最初に戻っちゃうって言ってるじゃん。経過時間だけは蓄積されるけど、たとえばこうやって話したことも……、な、なかよく……なったり、したのも忘れて戻っちゃうんだぞ。……最初っからやり直して同じような関係になれるとは限らないんだっ】


 そういうことか。


 じわじわと文字の言いたいことが伝わってきて、俺は不覚にも胸を打たれた。


 文字は俺と仲良くなったと思ってくれていて、万が一俺がここで死んでその関係を忘れてしまったら嫌だ、と。そう思ってくれているのだ。


「お前、いいやつなー……」


 思わずほろりと来た俺に、文字が恥ずかしがってうろたえる。


【な、なななな泣くなっ! ヤメロ――っ‼︎】


「俺絶対死なないからぁ……!」


【やっぱ一回死ね! 死んで忘れて! 今の無しっ!】


「もじー」


「み つ け た」


 ふっ、と闇が濃くなったかと思うと、覗き込むようにしてこちらを見下ろす赤鬼の巨大な顔がぬうっと現れた。


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