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宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
6/31

6.死んでても死ぬ!?



【にいいいいげえええええてええええええええ!】


「ぎゃ――――っ‼︎」


 半ば強制的に冥界行脚をすることとなった俺は、日本語/ニワカ仏教コースをクリアするため、第一の王、秦広王が待つ第一法廷を目指している……はずだった。


「いいいいいいやあああああああ‼︎」


 絶叫マシーンに乗った時にくらいしか出さない甲高い悲鳴を上げながら、右も左も分からない薄闇の荒野をチョップ手を振り回しながら走り抜ける。


「ま あ あ あ あ」


 その俺を背後からどすどすと地響きのような足音を響かせながら、それはそれはでかい赤鬼が俺を追いかけて来ていた。


 百七十八センチの俺の頭が鬼のくるぶしくらいの位置なんだから、その巨大さは凄まじい。

 山のような体格に、幅広の顔。肌の色はペンキで塗りたくったようにてらてらと赤い。


 頭頂部に乗ったもじゃ毛といい、恰幅のいい体型といい、虎柄腰巻(パンツ?)といい、大阪あたりに生息しているオバチャン勢力の血を引いていると思うのは気のせいか。


 やたらにキラキラ光る黄金色の猫目と、裂けた口からはみ出す八重歯、もじゃげの中からしっかり見える二本の角が、オバチャンではないことを主張してはいるのだが……!


 救いはやたらと緩慢な動きとゆるい頭。


 スローモーションのようにしか追ってこないので、こちらが全力疾走すればなんとか捕まらずにすむ。……が、それだけだ!


 一向に変わらない距離感で追いかけられる俺はすでにもうヘトヘトだった。


 文字の説明を受け入れ、催促されるままにどこへともなく歩き始めた俺は、気がつくと荒野の真ん中に存在していた。


 最初からそこにいたのか、それとも別の場所からワープしたのか。原理は分からないが、再び視覚が復活したことに心底安堵する。


 空は深い穴を覗き込んだ時のように真っ黒だし、光源といえば地平線をぼんやりと照らす赤い光のみで薄暗いし、草木は低く立ち枯れて、唐突に現れる渓谷や禿げ山は、世界の終末か? ってくらい不気味さを醸し出していたけど、五感で捉えられる環境に俺はひどく感動した。


 足の裏に感じる固い大地も、首筋を撫でる生ぬるい風も、全てが新鮮!


 大げさにはしゃぎまわる俺に文字は呆れ気味だったが、闇しか認識できない世界はやっぱりちょっと怖かったのだ。


 ……と、そんなこんなでもたもたしているうちに、件の鬼に見つかってしまったというわけだ。


「文字! 文字! 何だあれ⁉︎ 怖い! 怖いんだけどっ‼︎」


【とにかく逃げてっ! あいつに捕まると握り殺される‼︎】


 でかいフォントで流し込まれる文字列が事態の深刻さを訴える。

表情も声色もないのに、文字は結構感情表現が豊かだ。


 視覚が景色を捉えるようになってから気がついたのだが、文字は空間に浮かんでいるのではなく、俺の脳内に直接印字されているらしい。

 首を振っても視線を移動しても必ず視界に入って来るので、逃走中でも見失うことはなかった。


「握り殺されるって……! もう……っ、死んでる、のに……⁉︎」


 絶賛爆走中なので、会話をするだけでも呼吸が乱れて息苦しい。

 ゼハゼハ息を切らせながら尋ねると、でかいフォントのまま文字が警告した。


【死んでても死ぬから! ギャーってなって、ぐちゃってなって死ぬから!】


「ギャ――――⁉︎」


 説明らしい説明ではないものの、その悲惨さは十分伝わって来る。

 恐怖に駆られて、俺は疲労を訴える足に鞭打ってさらなる加速を試みた。


「て え え え え」


「来たああああああ!」


 見通しの良すぎるこの平野は隠れる場所が少ない。

撒く、という小技を封じられた環境で、若いとはいえもやしでヘタレの俺がそういつまでも逃げ続けられるとは思えなかった。


「わあああああああぶしっ‼︎」


 焦りすぎて何もないところで盛大にコケる。脳内イメージと身体能力が噛み合わず、足がもつれたのだ。


「〜〜〜〜っ」


 固い地面にデコと鼻を打ち付けて声もなく転げ回る。


 痛い! すっごく痛い!


【立って! 逃げて! ハリア――――ップ‼︎】


 文字が素早く閃いて俺を必死に急かした。

 だけど俺は顔面の痛みと未だ格闘中なわけで。


「あ あ あ あ あ」


 謎の咆哮で空気をびりびりと震わせながら、巨大な影が俺を包み込む。

目前まで迫った鬼の大きな足がゆっくりと持ち上げられて俺の頭上に構えられていた。


もうだめだ!


 この位置では握り潰されるより踏み殺される方が先だ。

 反射で目をつぶると、俺は断末の瞬間に備えて身を縮めた。


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