22.その夢、誰の夢(2)
狡猾なやり口だ。
ドベの体で走りながら、俺は思った。
隠れる遊びにしたのは、探さなければ見つからないからだ。見つけなければドベを構う必要もない。
しかも、一応仲間に入れた態をとっているから「遊んでくれなかった」という訴えは通らなくなる。
そうやって追い払って、自分たちは別の場所で別の遊びをするのだろう。
なんて狡い奴らだろう。
俺の悔しさとは裏腹に、ドベは一生懸命隠れる場所を探していた。
大きな栗の木を見上げてやめ、壊れた納屋を覗いてやめる。
――あんちゃんが、みつけられるとこ。
きょろきょろあたりを見回して、ドベが閃く。
――そうだ。あそこなら。
ぴょんぴょんと跳ねるようにして向かったのは、海辺の洞穴だった。
どこだか知らないこの村は、どうやら海に面していたらしい。
岩場を進んで、洞穴に入る。
湿気のひどい穴ぐらは、俺が住んでいた六畳一間と同じくらいの広さがあった。
奥の方に腰掛けると、ドベが膝を抱えてふふふ、と笑う。
思考を共有している俺の脳裏に、ドベの記憶が蘇った。
あんちゃんがこの場所で他の子ども達と遊んでいる。
岩場で採って来た小さなカニやらウニやら貝やらを並べて、火を起こしておやつにしているのだ。
一緒にいたくて近寄ったら、泳げないチビはダメだ、と追い返されてしまったけど。
おれは知っている。ここはあんちゃんのお気に入りの場所だ。だからきっと、あんちゃんはここに来る。
違う、待て待て、と俺は無理矢理意識を切り離した。
ドベの意識に飲み込まれて、一瞬自分がドベそのものになったような錯覚を起こした。
――みつけてくれるかな。
俺の思考をもぎ取って、ドベが思う。
見つけてくれるかな。見つけて欲しいな。おれも、みんなみたいに「見ぃつけた」って言われたい。おれの大好きな、あんちゃんのあの得意げに笑う顔で、俺を見つけてほしい。
早く。早く。早く来て、あんちゃん。
願うような気持ちで待ち続けるうちに俺は……違う、ドベは。いつの間にか眠り込んでしまっていた。
何⁉︎
突然冷たいものが体にあたって、びっくりして飛び起きる。
見ると、洞穴が水浸しだ。奥より低い位置の入り口のあたりは、すでに海と同化している。
潮が満ちたんだ!
とっさに理解して、ドベが入り口に向かって走る。しかし、すぐに水深が深くなり、ドベの小さな体はあっという間にざぶざぶと腰のあたりまで浸かってしまった。
――こわい!
体が震えて、ドベがその場に固まる。
おれ、泳げない。沈んじゃう。どうしよう。怖い。怖い。怖い。
「あ……あ! あ、ちゃ!」
――あんちゃん! あんちゃん!
必死に声を上げるも、波の音にかき消されてドベの声はどこにも届かなかった。
「あ! あ! あー! ちゃ!」
ざぶん、ざぶん、と波が押し寄せる。ぶるぶる震えて、ドベが泣き出す。
「あああ……! ちゃ! こあ、いいい!」
あんちゃん! ここだよ! おれ、ここにいるよ!
見つけて! 見つけて! 助けて! あんちゃん!
一際高い波が洞穴になだれ込み、がばがばとドベの体を押し流す。洞穴の奥に押しやられて、そのまま引き潮で海に引きずり込まれた。
「ああ、がば……っ、ちゃあ、……がばごぼ」
必死に波間の上に顔を出すも、纏わりつく着物が重くて体が沈む。
口から、鼻から、耳から、目から。穴という穴から水が侵入して来て苦しかった。
短い手足をめちゃくちゃに動かしながら波に揉まれていると、遠くで子どもの声が聞こえた。
あんちゃんの声だったかもしれない。違ったかもしれない。そもそも空耳だったかも。
だけどドベは信じた。
あんちゃんが自分を見つけに来たのだと。
「あ、ん、ちゃああああああ!」
一声あげて、ドベは次の波に飲まれて沈んだ。




