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宴-en- 〜閻魔美少年と行く冥界世直し珍道中〜  作者: 風島ゆう
死を儚んではならない。
18/31

18.弱いっつってんだろ、俺は!




「ありがとうございました」


 平身低頭で謝辞を述べるのは、三人のご老体だ。


 どこぞの女将かというこぎれいな女性「おまえ」さんと、禿げずに髪の毛の生き残った小柄だがダンディな「あんた」さん。そして最高齢と思われるばあちゃん似の女性「ねえ」さん。

 三人は道中知り合ったそうで、似たような年代同士助け合ってここまでやって来たという。


 岩場にたどり着いた俺と焔は、アニと合流するなり、成り行きを見守っていたらしい三人に取り囲まれた。そこからは延々、感謝感謝のぺこぺこ大会である。


「本当になんとお礼を言っていいか。貴方が鬼の気を引いてくださらなかったら、今頃『ねえ』さんは消えてしまっていたに違いありません」


「いや、いーって。ほんといいから。もう勘弁してください」


 早々に離脱した焔と、しれっと無関係を決め込んだアニにうらめしさを募らせつつ、俺は必死にご老体ズを押しとどめた。


「俺は立ち止まっただけだし、その後転けたし。功労者で言ったら焔の方だ。あいつが戻ってきてくれなかったら、俺なんかさくっと食べられて足止めにもならなかったですよ」


【ほんとだよ。その通りだよ。肝に銘じろ。ゆとりのアホ】


 ぶつくさ苦言を呈する文字に苦笑する。ご老体ズの前で文字と会話するわけにはいかないので黙っていると、「あんた」さんがちらりと焔を見やってから、再び俺にへりくだった。


「とんでもない。貴方が最初に勇気を示してくれたおかげです。早々に六文銭を奪われて、夜の怪物に追いかけられて、鬼に食われて降り出しじゃ、無念が過ぎる。……貴方、まだ持っていますか、六文銭」


「え」


 上目遣いで問われて俺はたじろぐ。

 一瞬垣間見えた爬虫類のような眼差しが怖かった。


「俺たちも一文無しですよ」


 答えたのは俺じゃない。

 いつのまにそこにいたのか、俺の横に立ったアニがご老体ズに微笑んだ。


「道中仲間になった男に盗られてしまいました。貴方達は?」


 ごく自然に嘘を吐いて、アニが相手の腹を探る。

 あからさまにがっかりした様子で、「あんた」さんが答えた。


「皆それぞれですが、私は六文銭目当ての人間に襲われて、命乞いのために差し出しました。出し渋って殺されても、死体が消えるまでの間に金は盗られてしまいますから」


「私は親切に声をかけてくださった方にお預けしたら、持って行かれてしまいました」


 同調したのは「おまえ」さんだ。


「とても頼りがいのありそうな男性の方で、持っていると狙われるから、と言われて信じたんです。愚かでした」


 人を信じたことを「愚かでした」と表現する「おまえ」さんに、俺は何だか悲しくなった。

 無難に相槌を打って、アニが「ねえ」さんに話を振る。


「貴方は」


 ばあちゃんと同じくらいの年齢の「ねえ」さんが、恥ずかしそうに笑った。


「あたしはもう何度も鬼にやられているようで。やり直した時にはもう六文銭を持っていませんでした。きっと誰かが拾ったんだと思います」


 そうですか、と頷くアニの瞳が落胆して見える。

 おいおい。何を考えているんだお前は。

 よもやまさかご老人から金を巻き上げようとか思ってないよな、とじと目でアニを伺っていると、「あんた」さんがぽつりと言った。


「――彼はどうなんでしょうか」


 彼、というのが焔を指していることはすぐに分かった。

 派手な晴れ着に、高価そうな直刀。何よりちょっとやそっとではやられなさそうな戦闘力。人から奪い集めていなくても、所持金くらいは守っていそうだ。


【あれは持ってそうだよねー。仮に大した額持ってなくても、身ぐるみ剥いで交換所に持ち込めば高値で売れそう】


「おい」


 物騒な発言の文字を小さな声でたしなめる。

 なんてこと言うんだ。そもそも仲間同士で金を狙い合うなんて人道に反するだろう。

 ありえないぞ、と一人首を振る俺の横で、アニが「さあ」と意味深に首を傾けた。


「俺たちも彼とは出会ったばかりなので、よく分からないんです。とはいえ見ての通り強いですからね。無一文とは思えないし……あの晴れ着は高く売れそうですよね」


「おいおいおいおいちょっと待て!」


 その発言はご老体ズを唆しているように聞こえるぞ!

 焦った俺は、ちらちらと焔を盗み見るご老体達に向かって必死に説明した。


「焔は俺たちの仲間です。いい奴だし、俺を助けに来てくれたし、あなたたちだって間接的に助けられたでしょ。それに……そうだ、あいつは強いですよ。襲ってきた二人のおっさんもたった一人でばっさばっさ倒しちゃったし。変な気を起こさないでくださいよ」


 頼みますから、と懇願する俺を見て、ご老体ズが困ったように顔を見合わせる。

そこへ、タイミングよく焔の声が飛んできた。


「そろそろ行くぞ。鬼の出ない夜の間に距離を稼いでおきたい」


 ――それとも。


 実に艶やかな微笑みをたたえて、焔が言う。


「全員で俺を襲ってみるか。俺はそれでも構わないぞ」


「わ――――っ!」


 不・穏‼︎

 一瞬のうちにピリついた空気に耐えられす、俺は叫び声を上げた。


「やるかぁ――――っ! やるわけないだろ――――っ! 弱いつってんだろ俺は――――っ‼︎」 


 逆ギレした俺に圧倒されたのか、各々が「いやそんな」「そんなつもりは」ともごもご萎縮する。


 何なんだここの連中は。隙あらば六文銭を狙うとか盗賊か! 


 妙な空気を声量でねじ伏せた俺は、よし行こう! さあ行こう! と全員を促しながら、隣にいたアニをちょっと睨んだ。


「焚きつけるなよ、ご老人達を」


 眉を上げて、それからふい、とアニが視線を逸らす。


「君がどう思っているのか知らないけど、俺はあいつを仲間だなんて思ってないからね」


 うーわー。


「めんっどくさいなぁ、あんた」


 呆れる俺に顔色も変えず、アニがさっさと歩き出した。


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