12.仲間、ゲットだぜ!
「六文銭を狙う好戦的なやつらが【奪う側】で、戦う意思のないものが【守る側】だそうだ。便宜上の造語だろう」
答えたのは少年だ。いつの間にかこちらを向いて、俺たちを眺めている。
「話はすんだか。それでどうする」
どうする、とは何だ。
俺の疑問を読んだ様子で、少年が薄く笑う。
「ここで無難に別れるか。それとも二人で俺を倒しに来るのか」
「え」
倒す⁉︎
とっさに青年を伺うと、青い顔で少年を見据えたまま頰を引き攣らせていた。
「いやいやいやいや。ちょっと待て!」
せっかく回避したのにまさかの戦闘イベント再発か。
交差する二人の視線の間に割って入って、俺は両手をホールドアップした。
「何でそうなるの。確か双方奪う気はないってことで話がついたよな? なら戦う必要もないだろ。やめようよ。言っとくけど俺弱いから。やめてマジで」
「そいつも【守る側】だなんてどうして分かる。無難に別れるなんて言って、後ろから刺されたらシャレにならないぞ。安易に人を信じると酷い目に遭うって、俺君に言ったよね?」
「ほう」
年齢の割に尊大な態度の少年が青年に向かって口角を上げる。非常に好戦的だ。
「おいっ、やめろ。その顔やめろ、二人ともっ! もー何で? 仲良くしよーよ」
駄々をこねるように地団駄を踏む俺。
喧嘩は嫌いだ。しかもここでの喧嘩は命がけときている。
「いいじゃんもう。どうせ行き先は一緒だろ? みんなで行こうよ、第一法廷」
「は?」
「何?」
俺の提案に青年は目を剥き、少年は口を開けて驚愕した。
何でそんなありえねーって顔するかな。
二人が同時に視界に入る位置まで数歩下がると、がしがしと頭をかいて俺は懸命に言葉を足した。
「あのな。俺は幼稚園でも小学校でも、運動会で手ぇ繋いでゴールするような教育受けて育ってんの。競争社会で揉まれてねーの。務めた会社も、もっと覇気出せとか訳分からん叱責が嫌で辞めたくらいなの。つか何だ覇気って。見えんのかそれ。何色だよ。覇王色かよ。んなギラギラしてどーすんの? 何になるの? 海賊王?」
話しながら理不尽さを思い出して、息を吐く。
「――とにかくさ。出し抜くとか、奪い合うとか、そういうの無理だから。すげえ無理。ここは穏便に、仲良く一緒に第一法廷目指そうって」
「……」
「……」
【はー……。向上心の無さと承認欲求の低さが筋金入りー……】
三者三様に呆れた反応を返されて、俺はちょっと傷ついた。
なんだよ。身を粉にして働くとか、人間らしい生活を犠牲にとか、不条理を耐えて邁進するとか、そういうのが向いてない人間だっているだろ。
むむう、とむくれていると、青年が口を開いた。
「君の言い分は分かったけど、それとあの子が信用できるかどうかは別問題だ」
幾分剣呑さは和らいだものの、未だ相容れない疑いの眼差しを向ける青年。対する少年も、当然だと言わんばかりに目をすがめている。
「え、何で?」
不可解極まりなくて、俺は眉を下げて二人を見比べた。
「だってそこの美少年、彼一度は刀を収めたじゃん。それってあんたの【守る側】だって言葉を信じたからだろ? 戦う意志さえないなら攻撃しないって意味だ。【奪う側】なわけないよ。だいたいあんだけ強いんだからさ、本気で俺たちから金を強奪する気ならもうとっくにやってるって。わざわざ確認までとって出方を判断したのは無駄に殺したくないからだ」
優しいよね。と、結んだ俺の言葉に一番驚いたのは少年だったようだ。
無言で見開かれた瞳があまりに大きくて、こぼれちゃうんじゃないかと心配になる。
「それにさぁ」
驚くばかりの三人に対して、俺は説得を続けた。
この世界では信じ合って手を組むことすら難しいらしいので。
「一本の矢がどーたらで、三本だとどーこうって言うじゃん。あれ? みんなで渡れば怖くない、だっけ? 俺出発したばっかで心細いし、すげー弱からさ。強い奴とか、物知りな奴とか一緒にいてくれたら心強いんだけど」
ね? と女子がよくやる上目遣いのおねだりをここぞとばかりに真似してみる。
何事か考えるように直刀を見つめていた少年が、顔を上げた。
「いいだろう。俺はそれでいい」
【えええええ⁉︎】
「まじか! やったあ!」
快諾してもらえると俄かに嬉しい。
同行を承諾してくれた少年にバンザイで喜ぶと、俺はそのまま青年に向き直った。
目が合った瞬間、青年の体が、う、と傾く。
「やめろ。そんなキラキラした目でこっちを見るな」
「いいじゃん! 一緒に行こう! な!」
助けてくれたこいつも絶対いい奴だ。ここで別れるのは嫌だった。
なあ、なあ、としつこく迫ると、観念したのか青年ががっくりと肩を落とした。
「……分かった。分かったから」
「よっしゃー! 仲間ゲット!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ俺。
良かった! なんか良く分からん世界で良く分からんタスクを背負わされたと思ってたけど、仲間が増えれば心強い。
【馬鹿なの? 馬鹿じゃないの? どっちなの?】
俺の脳の片隅で、文字が真面目に混乱していた。